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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
尖閣を巡るPR合戦をどう戦えば良いのか?
それにしても、先週末にニューヨーク・タイムズに掲載された尖閣諸島領有権に関わる中国側の広告はインパクトがありました。この新聞はカネさえ払えば、テロリストに近い筋の主張から何から何でも掲載するのですが、それにしても2面見開きで買い付けるというのは異例です。そこに巨大な魚釣島のカラー写真が掲載されているのですから、ビジュアル的にも大変に目立つ広告でした。
問題は、この広告が相当な「効果」があったようだという点です。例えば、アメリカの公立高校に通っている日本人の生徒によれば、普段は親日的なアメリカ人の生徒(複数)から「あの広告の主張は本当なのか? 尖閣は日本のものと思っていたが、中国の主張にも一理あるようだ」と言われたそうです。
とにかく、PRに力を入れて、最後には米国世論を中国の味方とまでは行かなくても、日本の味方はさせないようにという、かなり強固な意図を感じます。そして、今回のものはある程度の効果を挙げていると言わざるを得ないのです。
何が問題なのでしょうか? カネに糸目をつけない、2面見開きでのカラー広告という戦術でしょうか? そうではないのです。
問題は、この広告の中で、あるいは同時期のLAタイムスの誤報もそうですが、日本による尖閣の領有権確定が「日清戦争の結果の下関条約」によるものだという情報操作があることです。
どうしてこの情報操作が問題なのかというと、日本国内では実感は薄いかもしれませんが、世界の中では「旧日本の帝国主義」というのは世界史の中では悪玉であり、その「帝国主義的な膨張」の一貫だということになると、尖閣の領有権に関しては日本の味方をする気が「失せて」しまうからです。
ちなみに、帝国主義的な膨張というのは欧米列強も散々やったわけですが、どうして日本だけが悪玉になっているのかということには、2つの理由があります。1つは、帝国主義の最たるものであるナチスドイツとの同盟で最後の世界大戦を終盤は一国で戦ったこと、そしてもう1つは、その帝国主義的な戦争を行った「国体(国のかたち)」を護持したためです。
ですから、中国としては、尖閣諸島の領有権確定を「日本の帝国主義」に結びつけ、それに日本が反発すれば、「現代の日本の主張は現在形での帝国主義である」というデタラメな批判が可能になるという、全く身勝手なロジックを持っているわけです。
これに対抗するためには、まず尖閣諸島の領有権確定は、下関条約(1895年5月)とは全く無関係であり、1879年の沖縄県設置後に同県による調査後、県政整備の一貫として1895年1月に領有権の宣言に至っているという経緯を確認することが必要です。
また、この1879年の沖縄県設置という問題を「琉球処分」という名称で、日本の帝国主義的な行動の1つであるようなニュアンスで捉えることが、自分の正義感なり、自尊心の満足になるという考え方があります。これは、沖縄=琉球というのが、実に平和的な「国のかたち」を持っており、それを尊重したいという気持ちの現れとして、一定の理解は可能という時代が続いていました。
ですが、今回のPR合戦にも見られるように、中国がある事ないこと取り混ぜて攻勢をかけて来ている中では、沖縄県設置という事件は、50〜60年代の激しい祖国復帰運動の結果としての、現在の沖縄の安定的な形での日本への帰属へ続く文脈で理解すべきでしょう。
もう1つは、日本の「国体(国のかたち)」についてです。戦争集結にあたって、国体の連続性はあるにしても、その後の長い戦後という時間を通じて日本の国体は帝国主義的な歪みから修復されているという点です。このことは、日本の官民が合わせて胸を張って良いわけで、現在形で日本が自国の領土の保全を図ることは帝国主義でも何でもないのです。
こうした3点、尖閣諸島の領有権確定が下関条約とは全く無関係であること、沖縄県設置という事件は現代から遡って考えれば帝国主義的な行動ではないこと、そもそも現代の日本の国体(国のかたち)は帝国主義的な歪みから完全に修復されているということ、これら3点をしっかり確認することが肝要と思います。
この3つの問題に「ぐらつき」があっては、どんなに派手な広告を米紙に出して対抗しても、相手の思う壺ということになる、ここは大切な局面であると思います。
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