コラム

「日本は5年で破綻」藤巻健史氏の警告に対しての「解」はあるのか?

2012年06月18日(月)11時07分

 6月14日に米ブルームバーグが配信した藤巻健史(フジマキ・ジャパン社長)の発言はショッキングなものでした。「ユーロがデフォルトになるより日本が先」「破綻は最短5年で発生」、その際には「1ドルは500円から600円」になり、10年ものの「長期国債の金利は80%をヒット」するだろうといのです。「何故ならIMFの試算では2014年には、日本の債務はGDPの245%に達するからだ」という指摘もしています。

 この記事は結構衝撃的だったようです。日曜に私は知日派のアメリカ人のビジネスマンに「読んだか?」と聞いたら「読んだよ。フジマキが言っているんだから日本人は真剣に受け止めなくちゃダメだ」と言われました。彼は「投資家っていうのは、無責任な発言で相場を動かそうとするけど、この話はそのレベルを超えている」というのです。

 私は藤巻氏がこうした警告をずっと発し続けているのは知っています。その一貫性は誠実なものだということも知っているつもりです。ですが、ギリシャの総選挙が近づく中で「ユーロ破綻より日本が先」とか「5年以内」というのは余りに刺激的であり、日本国債へ売り浴びせをかけそうな筋を挑発するようなことになっては大変だというのが実感でした。簡単に言えば、このタイミングでのこの発言には違和感があったのです。米ブルームバーグ経由でのメッセージ発信というのも、余り良い感じはしませんでした。

 ですが、後で分かったのですが、藤巻氏はほぼ同時に日本向けにもメッセージを出していたのです。それは日経新聞電子版の『マネーブログ、カリスマの直言』における「欧州より日本の国債が心配だ」という記事でした。ここでは、刺激的なスタイルを避けながら、ブルームバーグ経由での「警告」と同じ真剣さで「南欧諸国と違って、日本国債には世界の監視の目が光っていない」「日本の財政は甘やかされており危険である」ということを、切々と説いているのです。ここまで徹底した提言である以上は、真摯に受け止めるしかないのだと思います。

 そんな中、ギリシャでは緊縮財政とユーロ残留を公約に掲げたND(新民主主義党)が第一党になる見通しが伝えられました。議席としては過半数を確保という報道もありますが、得票率としては30%強に過ぎず、民意としては世論調査で出た「ユーロに残留したいが80%」という意見と「それでも緊縮に賛成したのは30%」という巨大な矛盾を抱えていることには変わりません。まだまだ今後の展開には紆余曲折が予想されます。

 藤巻氏の提言、特に日本バージョンの方は、とにかく南欧諸国に比べて日本国債の問題は、国際市場の監視を受けていない、そのために真剣な改革が進まないということです。では、この警告には「答え」つまり「処方箋としての最適解」はあるのでしょうか? つまり、

(1)日本国債が国内でほぼ消化されるのではなく、世界から監視を受け市場の洗礼を受けるレベルに突入することで、当面は危機の中の均衡が保てるのか?

(2)その危機の中の均衡、つまり「現在より国債は下がるが暴落にはならない」「現在よりも円は下がるが暴落はしない」という均衡を保つことができるのか?

(3)その際に、今よりは日銀は「流動性を供給」するが、「ハイパーインフレにはならない」という均衡のゾーンがあるのか?

(4)この(1)から(3)の均衡を保つ中で時間を稼ぎ、その期間内に、競争力を失った産業やムダな政府の支出を徹底的に処理して、新たな産業に適化した社会構造や人材育成などへ移行できるのか? その上で人口減少をストップさせ、率は少なくても安定的に経済成長を持続できる社会を実現できるのか?

 という複雑な連立方程式を考えた時に、(1)から(4)を満たす「解」はあるのでしょうか? 藤巻氏は辛口の立場で「(1)から(3)」から発想すると「解」はないから、「デフォルトかハイパーインフレ」しか選択はないという厳しいことを言っているわけです。「(1)から(3)」の連立方程式ということではそうかもしれません。

 ですが、改革を本当に先行させる、つまり(4)に成果を上げて色々なパラメータを良化させた上で、改めて通貨と財政を考えれば、どこかに(1)から(3)を同時に成立させる「困難だが細いゾーン」が見えてくるのではないでしょうか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン

ビジネス

世界株式指標、来年半ばまでに約5%上昇へ=シティグ

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

再送-SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story