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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
尖閣という方程式
尖閣諸島の地方自治体もしくは国による保有という問題は、石原知事が言い出した背景には、新党問題が話題になる中での国内政治があるのでしょう。また、どうして今のこのタイミングで議論を出してきたのか、という点に関しては、重慶市の薄熙来書記の失脚で浮かび上がった中国共産党内の政争という背景があると思われます。
政争が顕在化する中で、胡錦濤政権からこうした軍事外交上の問題に関しても、意見のズレが透けて見えるのかどうかは、日本だけでなくアメリカも重大な関心を持っていると考えられるからです。それはともかく、この機会にこの「尖閣」をめぐる「方程式」について確認しておきたいと思います。
(1)今回の報道で気になるのは、尖閣に関する領有権の主張が「中国と台湾」からされているという言い方です。この問題に関しては、中国と台湾を「同じように争っている敵」というイメージを強めるのは得策ではないように思います。あくまでも、中国の海洋戦略における膨張主義とのバランスを維持するのが目的であり、台湾に対して妥協する必要は全くありませんが、中国と同列に敵視するよう日本の国内世論に訴える必要はないと思います。
(2)まず、台湾は南シナ海で中国との領土紛争を抱えています。ここでは広い意味では台湾は、アメリカとそして日本とも協調関係にあります。尖閣問題において台湾を中国と同列に敵視することが、ある度合いを越えると中国として日台分断が図れることになります。
(3)一つ意識して置かねばならないのは、仮に尖閣に「台湾の活動家」が上陸して勝手な行為を繰り返し、そこで日本の海保との間で深刻なトラブルになったとします。その際に、「中国の艦船」がこの「台湾の活動家」なる存在を「救出」に動く中で、仮に「中国の艦船」の乗組員に海保を巻き込んだトラブルの中で不慮の事故が発生して1名ないし2名の犠牲者が出たとします。そうなると、その際の政治経済の情勢にもよりますが、台湾の世論は動揺して「中国側の英雄的犠牲」を賞賛せざるを得なくなります。このシナリオでは、尖閣での対処の結果、台湾というもっと大きな存在を失うことになるわけです。大変に危険なシナリオであり、その可能性を低めるためにも、水面下の日台関係には留意が必要と思います。
(4)世界の軍事外交の「問題」には、どうしても早く解決しなくてはならない問題と、このままバランスさえ取れていれば「解決」を焦る必要はない問題があります。尖閣も、そして台湾という問題も明らかに後者に属します。今回の騒動には中国の反応を探る効果はあるにえよ、一定程度以上に問題をエスカレートさせることで、相手に付け込まれる危険はないのか、慎重を期するべきと思います。
(5)今回の話でイヤな感じがするのは、領土の国家主権というのは土地の所有権という「私権」ではビクともしないという大原則が揺らいでいるということです。中国は、借金でクビの回らない国の国債を買って影響力を行使しようとしたり、必要以上に広大な土地を在外公館のために購入しようとしたりするのが好きなようです。そこには、カネで私権を買えば軍事外交上の支配権に転用できるという勘違いがあると思うのです。文明国にはそんな原則はないのであって、例えばアメリカではロックフェラーセンターを日本が買おうが、売ろうが、あるいはNYの一等地のホテルがアラブの財閥に渡ろうが痛くもかゆくもないわけです。この点において、都が買うとか国に買わせるという論理は、中国の「勘違いの挑発」に乗せられているようで感心しません。
(6)そもそも無関係な東京都が買うというのも良く分かりません。尖閣というのは沖縄の問題であって、東京の問題ではないからです。沖縄はどうしても中国に近い一方で、基地の問題も抱えており、あまりこの問題を背負わせると、反基地派を親中派に追いやるとでも思っているのでしょうか? あるいは、尖閣の問題でもう少し緊張が高まれば、基地問題に関する沖縄の世論を揺さぶることができるとでも思っているのでしょうか? この点に関しては、米国占領時代の沖縄の人々がどれほど真剣に祖国復帰運動を続けたかを理解すれば、そんなに失礼なことはできないと思うのです。
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