- HOME
- コラム
- プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
- 「海兵隊オーストラリア駐留」オバマ=ヒラリーの意図…
冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
「海兵隊オーストラリア駐留」オバマ=ヒラリーの意図はどこに?
オーストラリア訪問中のオバマ大統領は、「アジア太平洋地域はアメリカの軍事戦略上、最優先」であるという演説を同国の議会で行うと同時に、米海兵隊2500名のオーストラリア常駐を発表しています。そればかりか、首都キャンベラから遠く離れた北部海岸地帯のダーウィン空軍基地に飛んで、まずこの地に250名の米兵を駐留させると現場で宣言しています。
これと前後して、CNNによれば米空軍のマイケル・ケルツ少将は、アジア太平洋地域に最新鋭の兵器を移転したいとして、発言の中で超高性能戦闘機のFー22やCー17輸送機の配備を示唆しているという報道もありました。
では、こうした動きの背景には何があるのでしょうか?
オバマは「アメリカの軍事戦略上で最優先なのはアフガンでもイラクでもない」としていますが、では今回の動きは具体的には何が「対象」なのでしょう?
一つは、インドネシアであると見るべきです。今回海兵隊が駐留することになった、ダーウィンの地は、その名も「ティモール海」をはさんで東ティモールまで約800キロ、ジャワ島までは2000キロの至近距離にあります。丁度、南からインドネシアを睨むような位置にあるのです。
インドネシアの何が問題なのでしょう。この国は、世界最大のムスリム人口を抱えるといっても、基本的には原理主義とは程遠く、世俗の世界では資本主義による経済発展を進めています。ただ、そのためもあって一部の反体制派は、原理主義的な論理に基づいてテロ活動を行うことがあるのです。インドネシアはオバマ大統領にとって少年時代を過ごした、いわば第2の故郷です。その土地で、激しい反米・反資本主義のテロが起きるようでは困るわけで「抑止の構え」が必要と考えたのでしょう。
もう1つは、中国です。中国への抑止力という意味で、ではどうしてこんな南に拠点を構えるのかというと具体的には様々な理由があります。一つは、南シナ海での国境紛争へのプレッシャーを掛けるという意味です。ダーウィンから南沙諸島までは4000キロで、万が一の場合には即応体制が取れる距離です。
更には中国がオーストラリアでこの間、鉱物資源をめぐる紛争を起こしてきたという問題があります。当初は自由な経済活動の延長で始まった中国の豪州進出ですが、豪州サイドが警戒を強めると、中国は豪州人のビジネスマンを中国で拘束したり、かなり深刻なトラブルに発展したことがありました。勿論、今でも豪州経済と中国経済は密接ですが、豪州として「万が一」に備えて、米海兵隊を「傭兵」あるいは「消火器」として持っておきたいということはあるでしょう。
今回の駐留地であるダーウィンには、2003年になって南部のアデレードとの間に大陸縦断鉄道が敷かれています。その途中にあるアリス・スプリングスという砂漠の街には、NATO系列の軍事衛星追跡基地(電子諜報傍受センターの可能性が高い)があるなど、この鉄道自体が米豪同盟の軍事鉄道という性格を持っていると見ることもできます。
そんなわけで、多少「キナ臭さ」の漂う話なのですが、ではオバマは中国と真剣な「冷戦」を戦おうとしているのでしょうか? 私はむしろ逆ではないかと思います。
中国はアメリカにとって、最重要な貿易相手国であるだけでなく、米国債の保有を通じて債権債務上の関係も密接です。ですが、自分たちとは全く異なる価値観を掲げて世界に影響力を行使しようという中国、とりわけその軍事力の拡大を黙って見過ごすわけには行きません。中国が開かれた国になり、成長スピードも社会も安定するようになるまで、何らかの警戒とプレッシャーをかけ続けなくてはならない、少なくともオバマ=ヒラリーの現政権はそう考えています。
警戒といっても、ヨーロッパ経済の危機的な状況が続く中、日本や韓国、台湾が位置している東シナ海海域で、中国を相手に万が一にも軍事的な危機が勃発したら、この地域の経済だけでなく、アメリカの経済も壊滅的な打撃を受けます。そこで、今回の動きに見られるように、インドネシアをまたいで南シナ海からオーストラリアに至るエリアを「しっかり守る」ことで、中国との「冷戦」を「南にずらす」ことを考えているのではと思うのです。
今回のオーストラリアへの海兵隊駐留で、アメリカの対中国防衛ラインが「遠ざかった」とか、沖縄に空白が生じるから危険という議論があるようです。ですが、オバマ=ヒラリーの考えているのは、東シナ海に空白ができても良いとか、中国が進出しても構わないということではないと思います。東シナ海での「抑止力の競争」はひとまず沈静化させよう(といっても70%とか60%というのではなく、せいぜい90%とかそういう話)という方向性と見るべきだと思うのです。当面の中国のリアクションが気になるところです。
環境活動家のロバート・ケネディJr.は本当にマックを食べたのか? 2024.11.20
アメリカのZ世代はなぜトランプ支持に流れたのか 2024.11.13
第二次トランプ政権はどこへ向かうのか? 2024.11.07
日本の安倍政権と同様に、トランプを支えるのは生活に余裕がある「保守浮動票」 2024.10.30
米大統領選、最終盤に揺れ動く有権者の心理の行方は? 2024.10.23
大谷翔平効果か......ワールドシリーズのチケットが異常高騰 2024.10.16
米社会の移民「ペット食い」デマ拡散と、分断のメカニズム 2024.10.09