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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
政治という「現実」に組み込まれた「ウォール街デモ」
ニューヨークのウォール街を中心に、全米に広がっているデモですが、ここへ来てアメリカの政治という「現実」とのリンクが明確になってきているようです。
まず、今週のデモ隊は、マンハッタン島内の「億万長者のコンドミニアム」に押しかけて抗議行動をしています。その光景は、何とも「子供っぽい」ものでした。バスを仕立てて、デモ隊の集結地であるダウンタウンから、富裕層の住むアッパー・イーストなどへ押しかけたというのもマンガ的ですし、ニューズ・コーポレーションのマードック会長邸の外で「税金を払え」というコールをするというのは、同氏の支配する米国の「FOXニュース」などのTVメディアが「保守的」ということへの反発が重なって見え、メッセージがぼやけた印象です。
この欄でも取り上げた「サブプライムの問題を予見した天才」ジョン・ポールソン氏の邸宅もデモ隊に囲まれましたが、不動産バブルの破綻をリスクを取りながら予見した同氏のことを「億万長者」だと批判するというのは、「逆張りをして儲けたのはずるい」というこれまた、何とも幼稚なセンチメントだと思います。
そう考えると、そもそもウォール街でデモを仕掛けたというデモ隊の心情の核には「資本主義への批判」などという理屈ではなく、リーマン・ショックを契機にアメリカを追い込んだ「失態」への怒りがある、つまり思考パターンとしては、深みのない発想ではないかと思うのです。
そうは言っても、この「億万長者批判」ですが、オバマ政権が今回議会に突きつけている「雇用対策法案」とダブって来ています。この法案、一昨日までに議会上院での審議が期待されていたのですが、原案通りでは全く可決のメドが立たないことになっています。それはともかく、デモ隊の行動がオバマの政治日程には見事に重なってきているとは言えるでしょう。
同時に、先週あたりからニューヨークの場合は特にそうですが、教職員組合がデモに参加してきています。これは、全米の地方自治体で教育予算が大幅カットになる中、教員のリストラがものすごい勢いで進んでいるのを受けたものです。例えば、ニューヨーク市でもそうですが、産休の代理教師をカットするとか、音楽教育の一部をカットしてしまうとか、そもそもカネがないので、なりふり構わぬリストラになっているわけです。
これも、オバマの政策とリンクしています。というのは、その上院での審議入りに失敗した雇用対策法には、地方の教員確保のために連邦が補助金を出すという内容が入っているのです。ということで、一見すると「世間への反抗」というカルチャーと誤解しがちな「ヒッピースタイル」のデモですが、与党とオバマ政権の具体的な「政治」とはしっかりリンクしているわけです。
このことは、功罪の両方があるわけで、例えば共和党の一部からは、デモ隊とリンクしたオバマの法案は「社会主義で危険」という反対のキャンペーンになってくるわけですが、では、右派の「ティーパーティー」とこの「雇用デモ」とは、アメリカを完全に「左右に引き裂こう」としているのかというと、それもちょっと違うように思います。
というのは、やはり「雇用」という問題が琴線に触れるという感覚は、左右を問わないところがあるからで、デモがこれだけ全米に広がっているということについては、左右を越えた政治の世界でも「受け止めなくては」という意識になっていく可能性があるのです。
では、具体的にはどんなシナリオが考えられるのかというと、恐らくは、オバマの「雇用刺激法案」をある種の「縮小」することで、与野党合意を目指すというストーリーです。これはかなり現実的にあり得る話で、そこで一定の成果があれば、デモ隊の行動にも1つのメドが打たれることになるのではと思います。
それはともかく、アメリカの若者が「教職員組合」と連帯してデモをしているというのは、日本とは感性の違いがあるかもしれません。教育水準がある程度高いリベラルの若者は、基本的に高校時代の「先生たち」にはフレンドリーな感覚があるのです。
勿論、多少の「羽目外し」はやってきている彼等ですが、教師は「醜い大人の見本」などと反抗するカルチャーはあまりないのです。むしろ、ベトナム戦争の告発や、日本への原爆投下を批判したような「教職員組合系の先生たち」とデモ隊の若者は非常に仲が良い組み合わせだということは言えるでしょう。
そう申し上げると、どこか微温的で「世代独自のカルチャーは弱い」という印象を与えるかもしれません。そうかもしれませんが、とにかく、具体的な政策論にリンクしていることも含めて、極めて現実的な行動だということであり、思想闘争的な抽象論そのものが要素としては少ないのだと思います。
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