コラム

天災続きのアメリカ北東部、対応にもお国柄

2011年08月26日(金)12時19分

 火曜日の23日に発生した、バージニアを震源としたM5・8の地震については、時間の経過と共に被害の規模が明らかになってきました。TV各局の報道によりますと、一番揺れが激しかったのは震源地のバージニア州のミネラルという人口500人弱の小さな町で、ここでは学校の校舎が大きく損傷しただけでなく、多くの住宅や商店に被害が出ています。

 ニュース映像から判断すると、食料品店で商品の半分が棚から落ちているというのが、一番深刻なもののようで、恐らく震度5弱というあたりが最高だったと見ることができます。では、その程度の揺れでどうして大きな被害が出たのかというと、ミネラルの町におけるレンガ造りの煙突の損傷、ブロック塀の損傷などの映像を見れば一目瞭然です。レンガやブロックを単にコンクリで接着して積上げただけのものばかりなのです。

 要するに、耐震性ということは全く考慮されていなかったわけです。一昨日お伝えした、ワシントン記念塔についても、その後ハッキリとしたヒビ割れが見つかって周辺の公園は無期限立ち入り禁止になりましたが、単純に石を積み上げただけの塔ということもあって、当局としては最悪の事態、つまり倒壊の危険性を感じているのだと思います。

 驚いたのは、首都ワシントンの140校ほどある公立学校のほとんどが、地震の翌日の水曜日は安全確認のために休みになっているそうですし、震源地のミネラルでは向こう約10日間はとりあえず休校措置が取られるそうです。また、ワシントンにある国立大聖堂やスミソニアン博物館といったランドマークもかなり大きく損傷しているという報道があります。

 ということで、100年に一度という地震の前には、何の対策もしていなかったことが露呈したアメリカ東部ですが、その同じ地域では、今度は今週末に大型のハリケーン「アイリーン」が直撃しそうということで大騒ぎになっています。「アイリーン」は本稿の時点では、フロリダ半島の東部をゆっくりと北上中で、中心の気圧は950ヘクトパスカルで現在も発達中という恐ろしいものです。

 この「アイリーン」ですが、ジェット気流の関係で進路予想がかなり限定できており、米国東部の各州が全て影響を受けそうということもあって、上陸3日前の木曜の朝の時点から、全国ニュースもローカルも最大限の扱いになっています。大きな被害が予想されるノースカロライナ州の沿岸部、ニュージャージー州の沿岸部、ニューヨーク州のロングアイランドでは、大規模な避難が始まっていますし、地方自治体の中には非常事態宣言を早々と出すところも出ています。

 例えば、長距離の特急列車を運行している「アムトラック」鉄道は、ワシントンとニューヨークを結ぶ北東回廊線について、上陸の予想が日曜の早朝であるにも関わらず、金土日の3日間の運休を決定しています。このあたりの割り切りの良さというか、諦めの早さというのは、公的交通機関の責任ということでは大いに疑問が残ります。

 この鉄道の対応はともかく、全般的に早め早めの警告を行い、スムーズに避難を進めようという姿勢は、日本としても参考になるように思います。特にTVやラジオの報道については、日本の場合は実際に被害が出始めてからは本格的になりますが、接近数日前の時点での情報は、天気予報コーナーが中心で今ひとつ「大げさ度」が足りないのではないか、アメリカの派手な報道を見ているとそんな風に感じます。

 避難体制についても、有無を言わさず「強制的な(マンデトリー)避難命令」を知事なり、市町村長がビシッと出すと、同時に州兵組織や各自治体などがマニュアルに基づいて対応して、避難所への誘導なりを徹底するのです。勿論、アメリカのハリケーン対策が立派かというと、2005年の「カトリーナ」の際の大失態という例もあるわけですが、この「カトリーナ」でブッシュ大統領を含めた多くの政治家が、政治生命を縮めた教訓も生きているのかもしれません。

 とりあえず、私の住んでいる地域は内陸なので高潮の可能性はほぼゼロですが、洪水で道路が寸断されたり、強風の被害、長時間の停電というのは覚悟しています。地震対策では全くのアマチュアだった東部各州ですが、果たして「周到に準備した」ハリケーン対策の結果、どの程度被害を抑えることができたのかは、またこの欄でご報告しようと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インド国債、海外マネー流入 JPモルガンの指数組み

ビジネス

EU当局、銀行AT1債で報告書 価値上振れを懸念

ビジネス

ボーイングを処分、737MAX事故調査で規定違反 

ビジネス

円安、国内物価押し上げるリスクに十分注意必要=新藤
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:小池百合子の最終章
特集:小池百合子の最終章
2024年7月 2日号(6/25発売)

「大衆の敵」をつくり出し「ワンフレーズ」で局面を変える小池百合子の力の源泉と日和見政治の限界

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大丈夫」...アン王女の容態について、夫ローレンス卿が語る
  • 2
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地...2枚の衛星画像が示す「シャヘド136」発射拠点の被害規模
  • 3
    ロシア軍部隊を引き裂く無差別兵器...米軍供与のハイマースが禁断のクラスター弾を使った初の「証拠映像」がXに
  • 4
    衛星画像で発見された米海軍の極秘潜水艇「マンタレ…
  • 5
    ガチ中華ってホントに美味しいの? 中国人の私はオス…
  • 6
    白昼のビーチに「クラスター子弾の雨」が降る瞬間...…
  • 7
    「悪名は無名に勝る...」売名の祭典と化した都知事選…
  • 8
    貨物コンテナを蜂の巣のように改造した自爆ドローン…
  • 9
    傷ついて「帰国」したハイマース2台、ロシアにやられ…
  • 10
    偉大すぎた「スター・ウォーズ」の看板...新ドラマ『…
  • 1
    「何様のつもり?」 ウクライナ選手の握手拒否にロシア人選手が大激怒 殺伐としたフェンシング大会
  • 2
    偉大すぎた「スター・ウォーズ」の看板...新ドラマ『アコライト』を失速させてしまった「伝説」の呪縛
  • 3
    スカートたくし上げノリノリで披露...米大物女優、豪華ドレスと「不釣り合い」な足元が話題に
  • 4
    「大丈夫」...アン王女の容態について、夫ローレンス…
  • 5
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地.…
  • 6
    ロシア軍部隊を引き裂く無差別兵器...米軍供与のハイ…
  • 7
    アン王女と「瓜二つ」レディ・ルイーズ・ウィンザーっ…
  • 8
    衛星画像で発見された米海軍の極秘潜水艇「マンタレ…
  • 9
    韓国観光業界が嘆く「中国人が戻ってこない」理由
  • 10
    貨物コンテナを蜂の巣のように改造した自爆ドローン…
  • 1
    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に
  • 2
    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア
  • 3
    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間
  • 4
    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…
  • 5
    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 6
    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…
  • 7
    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…
  • 8
    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…
  • 9
    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 10
    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story