コラム

「国歌の替え歌で逮捕?」自民党のマーケティングはどうなっているのか?

2011年03月04日(金)12時18分

 報道によれば自民党が「国旗損壊罪・国歌侮辱罪」の提案を検討しているそうです。このうち、国旗損壊を罪にするのはそれほど異常なこととは思いません。国旗の焼却行為というのは、その国旗を持つ国家と国民に対する侮辱であり重大な紛争に発展する可能性があります。そうした国際社会の秩序撹乱行為を抑止する目的であれば、損壊を禁ずるというのは一理あるからです。

 現在既に外国国旗の損壊については「外国国章損壊罪」という刑法の規定で禁止されているのですから、同様の行為を自国国旗に関して禁止する趣旨であれば、決して不自然ではないでしょう。ただ、民主党の党旗を慌てて作るのに日の丸を重ねて切り貼りしたというような「間抜け」な行為まで罰するようだと話は違います。低次元の政争を仕掛ける姑息さしか感じられず、そこまで含めたいのなら反対せざるを得ません。

 一方で「国歌侮辱罪」というのはこれは大変です。というのには色々な理由があります。まず太陽信仰や江戸期以来の船籍表示など歴史的経緯のある国旗と比較すると、「君が代」の正統性は明らかに弱いと思います。明治期にお抱え外国人音楽家との共同作業で急いで作曲したものであり日本の長い歴史と伝統を基盤とする音楽とは必ずしも言えません。

 何よりも「君(天皇)の世(治世)が永遠であれ」という歌詞は君主制のカラーが強すぎて国論分裂の材料となる危険があります。象徴天皇制の解釈は、精神的な戦後処理の態度の相違から日本では大きな幅があります。精神的文化的統合の求心力を期待して限りなく君主制に近いものから、単なるシンボルだとして国体の本質は共和制とほぼ同質という理解まで幅があります。

 その幅を許し、その幅の上に存在することで「統合」を「象徴」するのが象徴天皇制だとするならば、国歌の歌詞はともかく、その替え歌を禁じるというのは明らかにバランスを欠き、統合の実現にはマイナスだと思うのです。

 歌詞に関して言えば、「君が代」の元になった古歌にも「我が君」が「君が代」に変遷したという経緯があり、歌詞の歴史にも「ゆれ」があるわけです。にもかかわらず、替え歌だけで逮捕するなどというのは「野暮」の極地です。

 アメリカでは、一時期まで国歌は「正統調」で歌わなくてはならないという時代がありましたが、今はロック調、ゴスペル調など様々な表現形態があり、それを国全体で楽しんでいるところがあります。それはそれで、外部から見ればやや異様なほどの愛国心高揚になっているのですが、それはともかく、日本の高齢者の中には故忌野清志郎氏の「ロック風君が代」でも侮辱だと考える人もいるかもしれません。そうした「世論」に押されて「ロック風」などという「表現の幅」まで「替え歌」とか「不謹慎」とか言って逮捕するようなことにでもなれば、それこそ世代間の分裂を拡大するだけでしょう。

 そのアメリカでは、例えば今年2月のスーパーボウルで冒頭の国歌独唱を歌ったクリスティーナ・アギレラが歌詞を間違えるという事件がありました。大変な失態ですが、別にアギレラは非難にさらされたわけでもなく、1つのハプニングとして処理するなど世論は大人でした。日本の社会にとってはこの種の成熟というのはこれからの課題であるのに「替え歌は犯罪」などということになったら、それに逆行してしまいます。

 そういえば、日本の「君が代」も最近はスポーツのイベント等で「独唱」があるようです。この「独唱」にはもう慣れてしまった方もあるかもしれませんが、私はこれは「正統」とは思えないのです。「君が代」というのは、戦後においては「賛否両論ゆえに黙って聞く」か「控えめに口を動かし粛々とした斉唱に和する」というのが「自然な姿」だと思うのです。歌唱力のある人が朗々と歌ってしまうと、確かに菅総理の言うように「暗く」なってしまうのと、スタイルとしては明らかにアメリカのマネなので、どうも馴染めません。

 問題になっている「卒業式での起立問題」なども、拒否すると教委から処分されるだけでなく、刑事犯罪にするのでしょうか? そこまでやってしまうと、中国の独裁主義とか国家主義を全く批判できなくなります。まして、仮に将来のある時点で中国が穏やかに民主化した時には、世界から日本はスルーされる、そのぐらいの危機感を持って欲しいと思います。もう自由経済の観点からは中国を批判できる時代はないのです。

 それでも「国歌をバカにされると、いかにもインテリが自分たちを見下しているようで不愉快だ」という層は高齢者の中にはいるでしょう。ですが、そうした層は「年金や補助金」の固守にこだわる、つまり「大きな政府」論者だと思うのです。そしてこの「愛国+既得権固守」というマーケットは、「たち日」とか「国民新党」が押さえてしまっています。では、自民党はどんな層をターゲットにするのでしょうか?「愛国+小さな政府」などという組み合わせは、それこそ後ろ暗い独裁を志向しているブラック企業の「青年実業家」的なイメージしか思い浮かびません。

 もしかしたら、自民党は「統一地方選」において、決して票読みが楽観できないという危機感を募らせているのかもしれません。それゆえに、石原慎太郎知事の出馬に固執し、石原票の勢いで東京などの得票率をアップする、その戦略との整合性だけでこの間「国旗・国歌」などにこだわりを見せているという可能性はあるように思います。ただ、それでも「あえて自民」という票はやはり限られるように思います。そもそも石原知事自身、「替え歌でも逮捕」などという思想に迎合するほど単純な人でもないでしょう。

 とにかく、今の時点で自民党への期待が残っているとしたら、イデオロギー政党ではなく、実務家集団としての統治能力だと思うのです。古臭いナショナリズムは「たち日」が受け皿になるのですから、むしろどんどん切り離すべきでしょう。その上で、正々堂々と「成長戦略」+「日米協調」+「大人の対中露外交」+「小さな政府と財政再建」を主張し、より説得力のある具体案を示してもらいたいと思うのです。そうでなければ、政治の対立軸は益々崩壊の方向に進むからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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