コラム

日米関係は黄信号、問題の根はどこに?

2010年02月03日(水)13時26分

 普天間の問題で議論が停滞すると同時に、アメリカではリコール問題でのトヨタ・バッシングが広がっています。そんな中、オバマ大統領はインドネシアとオーストラリアを訪問すると発表、その途中でグアムにも立ち寄るようです。このオバマの太平洋中南部訪問に関して言えば、そのグアムで海兵隊の移転問題に引っ掛けて「普天間に関する決断」へとプレッシャーをかけてくるのでは、そんなことが言われていますが、それ以上に気をつけなくてはいけないのはオーストラリアです。

 オーストラリアは現在、日本と中国との問題を抱えています。まず中国との間では李克強副総理の進める資源外交に対して、石炭・鉄鉱石の開発会社への中国の出資を阻止したことで関係がギクシャクしています。また日本との間では、捕鯨禁止の問題で文化摩擦が悪化をたどっています。そんな中、米中関係は「グーグル」「台湾」「ダライ・ラマ」などの問題で一気に冷え込む気配もあるわけで、こうなると「米中G2の蜜月による日本外し」ではなく、保護主義の牙を隠しながら輸出立国を宣言したアメリカが「日中はずし」に進んで行く、そんな気配も感じられるのです。その意味で、オバマの豪州訪問は注意して見ないといけないように思います。

 何が問題なのでしょう。これは「民主党のアメリカ」と「日本、中国」がうまくいかなくなる際の典型的なパターンが出ている、これに尽きると思います。では、何がブッシュ政権時代と違うのでしょう? 根に孤立の心情を持つ共和党にとっては、異文化はあくまで異文化であり、あくまで自国の利害を優先する一方で、相手の理念は余り気にしません。異文化に理念が通じるとはそもそも思っていないのです。ですから、マキャベリズム的発想から敵味方を峻別する一方で、味方には賓客としての厚情を示す、共和党の外交パターンはそうした傾向がありました。民主党はこれとは全く違います。(※文末後記1)

(1)人種や文化圏の違いを超えて、自由と民主主義、生存権や自己決定権といった概念は適用されると固く信じ、その価値観を共有する限りは国籍や人種による差別をしない律儀さがある。一方で、価値観が違うとなると急に親近感が冷める。

(2)国境を越えた原則として人権やリーガルマインドを重んじる一方で、必要な自己主張をしない相手には簡単に苛立ってしまい、関係を拒絶したり敵視したりする。

(3)言葉で理念を語り、言葉で利害を語れば世界中の人間と意思疎通ができるという楽観性を持っている。反面、言葉での議論に乗ってこなかったり、言葉の約束を軽んじる相手には、時に非常に冷酷である。

 日本も、中国も、このようなアメリカ民主党の発想法に真正面から衝突しつつあると言って良いでしょう。中国はこの中で理念、つまり(1)の問題だけですが、ちょっと押したり引いたりしてみたら、中国側が余りに露骨に敵対してくるので急速に関係が悪化してきています。一方で、日本の鳩山民主党やトヨタなどは、この(1)から(3)の全ての点で虎の尾を踏みまくっていると言っても過言ではないでしょう。

 特にマズイのは(2)です。必要な自己主張をしない人間、法廷や外交の場で対決しても構わないのに意味不明の謝罪をしたり、奇妙な腹芸を使ったりする人間には、限りない不信の念を抱くのです。例えば、トヨタのアクセルペダル問題では、説明に時間がかかった一方で、CTSコーポレーションの責任だと断じながら、日本の本社では「謝罪」という言葉を安易に使ってくる、その「訳の分からなさ」が不信を増幅していると言って良いでしょう。フォードの欠陥車事件の際に、純正タイヤを納入したブリジストンが「性能が良すぎて滑ってくれないので横転の原因になる」という100%引っかけのような話で脅されて、法廷に出るのがイヤさに巨額の賠償をもぎ取られたのは記憶に新しいところです。その逆をやれとまでは言いませんが、もっと毅然とした姿勢を見せねばどんどんつけ込まれます。

 例えば豊田章男社長からは「修理にはコスト無制限で」対応せよという発言があったようですが、こういう言い方はアメリカでは「自社の利害を棚に上げるのは不誠実で、何を考えているか分からない」という印象になります。ホンネの見えない、利害関係をさらけ出さない相手にはどうしても不信感を持ってしまうのであり、結果的に「本当に無制限に負担させるぞ」という強硬姿勢へと相手を追い込んでしまうのです。米国当局から制裁金を課すという動きが出ているのも、そうした流れに沿ったものだと思います。(※2)

 沖縄の問題では、岡田外相が「普天間の使用継続もやむを得ず」というアドバルーンを上げたわけですが、アメリカ側としても「極論を口にすることで、鳩山首相以下のそれぞれの政治家や世論の反応を見よう」という岡田氏の意図は理解していると思います。ですが、ちょうど東京に出張中であるキャンベル国務次官補あたりは、「そこまでの奇手を使わねば、お互いの腹の中も分からない」という集団全体に対して、落胆とともに苛立ちを感じているでしょう。

 そのキャンベル氏は、この欄でも再三お伝えした「国際離婚における子供の略取」に関して、改めてハーグ条約への加盟を強く迫っているようです。この問題では、離婚後の子供に対する「共同親権、養育費の強制支払い、面会権の法的強制」について日本の民法を改正して、正々堂々と日米対等の運用をすべきなのですが、法務省当局は、これを回避して「DVの有無などでケースバイケースの判断をして」子供を「アメリカに送る」小手先の案を考えているようです。(※3)

 報道によれば、キャンベル氏は「DVのケースはない」と言い放ったことになっていますが、本当は日本側の「対応策」が余りに表面的で、しかも日本人の子供を「場合によってはアメリカに送ってしまう」ような腰砕けの内容であることについて、内心深く軽蔑しているのではないかと思います。この問題は、ヒラリー・クリントン国務長官、ルース駐日大使も重大な関心を寄せているようですし、日米関係がこうなった以上は、沖縄と並んで1つの試金石になるようにも思います。

 冒頭申し上げたオーストラリアに関しては、捕鯨文化摩擦が頭の痛い問題として横たわっています。ただ、この問題についても「調査捕鯨」という建前を掲げて条約に加盟しておきながら、捕獲した鯨は食用に流通させているという「論理矛盾」が彼等の怒りに油を注いでいる面が強いことを考えると、前途は暗澹たるものがあります。

 オバマ大統領の反核姿勢が日本で人気があるように、そして依然として日本文化がアメリカでの人気を維持しているように、今度と言う今度は「民主党のアメリカ」と「日本の中道左派」に良い関係を築くチャンスだと私は思っていました。ですが、現在進んでいるのは、その反対であり、余りにも典型的な衝突パターンに、しかもかなりタチの悪い形で入って行っているように思います。

(※1)詳しくは拙著「民主党のアメリカ 共和党のアメリカ」(日経プレミアシリーズ)をご参照いただければ幸いです。

(※2)私はトヨタの立場を100%支持はしていません。アクセルとブレーキが共に電子制御の車に、機械式制御時代と同じで構わないからと「ブレーキ優先設計を導入しない」姿勢には反対ですし、この点を直さないと第3のリコール騒動の危険があると思っています。ハイブリッド車のブレーキ仕様にも疑問があります。

(※3)民法の離婚条項が改正できないのは、「離婚した前妻(前夫)とは関係を100%絶つべき」であるとか「基本的に子供は母親が育てる」といった、日本人の家族観に食い込んだ文化を考え直す作業を伴うからで、夫婦別姓への反対に見られるようなイデオロギー対立より深刻な問題を含んでいるのは承知しています。ですが、それでもこれをやらなくては、国際離婚事例は合理的に解決はできませんし、国内の多様な家族のスタイルにも対応できないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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