コラム

2010年代のグローバリズムはどうアップデートされるべきなのか?

2010年01月25日(月)14時14分

 吉崎達彦氏のニューズレター『溜池通信』の最新号は、これからの10年がどんな時代になるのかを占う重要な議論を提起していると思います。1990年代は「グローバリズムの時代」、2000年代は「グローバリズムのバックラッシュの時代」であると冷静な総括を行った上で、これからの10年は「グローバル化が反撃に出て、時代が進む」という見通しを提示している、これは重要な指摘です。

 このコラムの冒頭では、私がJMMで書いた、アメリカの「前向きな年明けの光景」を引用してくださっていることもあり、折角ですので「タスキを引き継ぐ」ような形で「2010年代のグローバリズム」はどうなるのか? そして90年代のクローバリズムとはどう違ってゆくのか、について論じてみたいと思います。2010年代にグローバリズムが「反撃」に出るとして、90年代とはどう違うのか? 恐らくそれは4つの点に集約できるのではないかと思います。

(1)「自由+民主主義+科学の万能+市場経済の合理性」という単純な価値観から「自然観や人間観の多様化、部分的な統制や介入による市場経済へのコントロール、多様なグループ相互の威信の尊重」への変化が起きています。90年代のグローバリズムというのは、冷戦の終焉に伴って「歴史の終わり」(フランシス・フクヤマ)などという言説が流行するほどに「自由と民主主義」そして市場を中心とした経済合理性や科学至上主義が信じられた時代でした。ですが、2000年代にその弊害が噴出した結果、2010年代は価値観を多様化させながら、単一の価値観が暴走して他の文化圏の名誉を否定したり、あるいはバブルを生じたりするのを防止しようという時代になると思われます。ゲームのルールも「世界を束ねる価値観の勝者になりたがる」プレーヤーではなく「多様な価値観を認める中で、無用な紛争やバブルを回避しつつ、より精緻に実利を求めてゆく」プレーヤーに有利になるように変化するのではないでしょうか。

(2)「ハードな現金」より「余裕のある信用力」、「モノや一過性のサービスの販売」より「価値観の共有や、安心感、信頼感をベースとした長期継続可能な関係性のビジネス」へのシフトがより徹底されて行くでしょう。対消費者におけるブランド力ということでもそうですし、国家間の、あるいは地域間の関係性という意味でもそうなると思います。

(3)90年代までのグローバリズムや国際化というのは、限られた「国際都市」がヒト・モノ・カネの「ハブ機能」を持っていた時代でした。ですが、2010年代のグローバリズムというのは、各国の特徴ある地方が自分たちとの相性の良い他国の地方とビジネスやカルチャーのパートナーシップを直接結んで行く時代になるのだと思います。肥大化した「国際都市」は、グローバリズムの結節点の地位からは滑り落ちるでしょう。何故なら、そこには90年代から2000年代の弱肉強食やバブルの膨張と崩壊の記憶が鮮明だということがありますし、消費に特化した大都市というのは生産や生活の拠点としてフルスペックではないということ、そして何よりも自然観や人間観のキャラが摩耗した文化の墓場だからです。例えば、各国の「中小企業」の努力が「中央」や「最終組み立て企業」に一旦集約されて国外と結びついていた、これが90年代型であれば、2010年型は、地方のベンチャーが直接海外のパートナーと結びついてゆく時代になると思います。

(4)グローバリズムの前提となるグローブ(地球)のイメージにも、大きな変化が生まれています。90年代のグローブ(地球)とは、国際化途上の国や個人からは「無限に開かれた空間」に見えました。とにかく地球社会という広大な空間へ旅立とう、広大な空間にチャンスを求めようという単純な動機がそこにはあったのです。ですが、2010年の現在、地球社会は無限ではありません。利用可能な資源も、排出の許されるガスも有限であり、経済成長にも部分的に「ゼロサム」の要素が色濃くなりました。これからは、限りある地球社会の限界とか全体量を意識しながら、全体の調和や発展の持続性が意識される時代になると思います。成長を諦める必要はないのですが、成長が許される条件は厳しくなってくると思います。

 以上の4点以外にも、グローバリズムに対する考え方を「2010年バージョン」にアップデートすることが重要です。カギを握るのは、人材育成だと思います。このような新しい次代の要請に応えられる人材を多く育てた国や地域、あるいは企業だけが勝ち残ってゆけるからです。一言で言えば、複雑さに負けずにコツコツ作業を行える人材、多様な価値観を数学の多元連立方程式のように整理しながら「答えの出ない状況に耐えていく」強さを持った人材、失敗を恐れないリスクが取れると同時に失敗への柔軟な修正力のある人材、そんなイメージになるのではないかと思います。いずれにしても、この議論、こう少し継続的に考えて行きたいと思っています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

企業の資金需要、1月は改善 利上げ決定も先行きに変

ビジネス

ロンドン、金融センター調査で6年連続世界トップ N

ワールド

グリーンランドの帰属巡りトランプ氏と協議せず=NA

ワールド

スペイン、EU共同軍創設を提唱 抑止力強化へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 3
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている「とてつもなく巨大な」生物...その正体は?
  • 4
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 5
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 9
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 10
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story