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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
オバマ流「サミット厳戒態勢」の意味とは?
先週のアメリカは、国連総会そしてピッツバーグでのG20と華やかな国際外交が繰り広げられていました。日本にとっては新任の鳩山首相の「外交デビュー」ということでかなり関心が高かったようですが、アメリカはどうだったのでしょう? オバマ大統領にとっても、華麗な舞台であったはずの「外交ウィーク」でしたが、実際のところは余り盛り上がらなかったのです。
その背景には「医療保険改革が難航する中、内政を放り出して華やかな外交をしている」というイメージを避けようとしている、そんな雰囲気を感じます。医療保険改革が「エリート的な理想論」として批判を浴びている中、それこそ「サミットだ、国連だ」という「派手な」行動をアピールするのは得策ではない、そんな計算も見え隠れします。
例えば、G20の開催されたピッツバーグは大変な厳戒態勢だったのですが、そのことは余り報道されていません。例えば、鳩山首相が野球のパイレーツの本拠地、PNCパークで始球式を行ったというニュースは、日本では大きく報道されたようですし、アメリカのスポーツニュースでは、それなりに楽しい話題として報じられています。ですが、今回のサミット開催中PNCパークでは2階席は閉鎖して極端に少人数の観衆しか入れていなかった、そのことも一部でしか報道されていません。
逆に、このサミットに向けてアフガン出身の「テロリスト」が全米、特に東北部の鉄道を中心とした交通機関を狙った攻撃を計画していたとして逮捕されています。このニュースは連日大きく報道されていました。実際にピッツバーグで取材した報道機関に拠れば、警官隊と衝突したのは「グローバリズムに反対」している「アナキスト(?)」グループで、シアトルのWTOやジェノバ・サミットで暴れたのと同じようなグループだったようです。
ですが、この「鉄道テロの計画」の話ばかりが大きく報道されるので、サミットに合わせて「イスラム原理主義者」が陰謀を巡らしている、漠然とそんなムードが広まっていったのです。もしかしたら「グローバリズム反対」のデモのことが大きく報道されてしまうと「草の根保守」が「デモ隊の言い分も意外と正しいではないか・・・」と思ってしまう、まあそうした可能性はそれほど大きくないかもしれませんが、とにかく「イスラム原理主義者」を「敵」にしておいた方が警備への理解も得やすいし、「オバマはそれなりに戦っている」というイメージも出てくる、そんな計算も感じます。実は、中東和平への3者会談という大事件もあったのですが、こちらも大きくは報道されていません。
そんな中、国連ではリビアのカダフィ大佐やベネズエラのチャベス大統領などの「反米勢力」が好き勝手な演説をしてくれるし、丁度この週にイランの「地下施設疑惑」が暴露されるなど、多少の情報操作もあるにしても結果論としては「戦うオバマ」を演出できたとも言えるでしょう。その点で、割を食ってしまったのが鳩山首相です。全人類に対する大胆な「25%削減」宣言も、アメリカではほとんど話題になっていません。というのも現在のオバマ大統領には、ハトヤマ・ドクトリンに呼応して「グリーン・エコノミー」に突っ走るだけの政治的エネルギーは持ち合わせていないからです。
その鳩山首相ですが、外交ウィークを終えると新しい週は内政で多くの難問に立ち向かってゆかねばなりません。大相撲の千秋楽に登場して、日曜のうちに「国内モードへのスイッチ」をアピールできたというのは、日程的には大変だったと思いますが、なかなかどうして緻密なスケジューリングをやっているように見えます。とにかく、鳩山政権には、公約の実行に焦るあまりに、苦境に立っているオバマ大統領の轍を踏まないようにしてもらいたいと思います。
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