1978年、極左武装グループ「赤い旅団」の誘拐、映画『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』
『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』(c)2022 The Apartment – Kavac Film – Arte France. All Rights Reserved.
<巨匠マルコ・ベロッキオの『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』は、アルド・モーロ誘拐事件を6話構成で描く340分の大作だ......>
1978年3月16日の朝、キリスト教民主党党首で、元首相のアルド・モーロが極左武装グループ「赤い旅団」の待ち伏せにあい、誘拐された。モーロは、冷戦下のイタリアで第二党へと躍進した共産党が入閣する連立政権樹立のために奔走し、彼がお膳立てした新しい内閣がその日に発足することになっていた。
巨匠マルコ・ベロッキオが、以前取り上げた『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』の前に監督した『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』は、アルド・モーロ誘拐事件を6話構成で描く340分の大作だ。
アルド・モーロ誘拐事件を6話構成で描く
ベロッキオが同事件を扱った『夜よ、こんにちは』(2003)と本作は、タイトルが示唆するように「夜」をめぐって対をなしている。本作の構成は、1話と6話、2話から5話のふたつに大きく分けることができる。
1話と6話で中心になるのはアルド・モーロ。1話では、激しい反発や批判を受けながらも、共産党との連立の話をまとめたモーロが、3月16日の朝に誘拐されるまでが描かれ、6話は、モーロの遺体が発見される前日の5月8日から始まり、その時点で彼の運命は決定的なものになっている。
これに対して、そんな事件の始まりと終わりの間を埋める2話から5話には、モーロは登場しない。『夜よ、こんにちは』では、誘拐されたモーロを匿う役割を担う赤い旅団の女性メンバーの視点を通して、監禁された彼の姿が描かれていた。本作では、モーロを父と慕い、救出のために尽力する内務大臣フランチェスコ・コッシーガ、モーロと旧知の仲であるローマ法王パウロ6世、赤い旅団のメンバーで後衛を担う女性アドリアーナ・ファランダ、モーロの妻エレオノーラを各話の中心に据え、外側から事件が描き出されていく。さらに、このふたつに分けたどちらのパートにも、独自の視点が際立つ要素が埋め込まれている。
旅団から届けられる最初の第7の声明
『夜よ、こんにちは』には、モーロが自由になる幻想が盛り込まれていたが、本作にも事実とは異なる場面がある。1話は、モーロが生きたまま発見され、病院に収容されたという設定から始まり、アンドレオッティ首相、ザッカニーニ党書記長、コッシーガが病院に駆けつる。6話でも、同じ場面が再現されるが、それが意味するものは変化している。
2話から5話のパートについては、独自の視点に言及する前に、モーロ誘拐後の状況を確認しておくべきだろう。アンドレオッティ首相は赤い旅団に対して強硬路線を打ち出す。これに対して、各話の中心に据えられた人物たちは、立場はまったく違うが、それぞれに交渉や解放の余地を模索する。だから各話には、強硬路線と柔軟路線のせめぎ合いがある。
それを踏まえて、ベロッキオが事件の経過で特に関心を持っていると思えるのが、旅団から届けられる最初の第7の声明だ。「最初の」というのは、それが二度届けられることになるからだ。
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