コラム

南シナ海、強引に国際秩序を変えようとする中国

2016年05月02日(月)18時00分

南シナ海の軍事化を進める中国に周辺国は反発している(写真はフィリピン空軍機のデモンストレーション) Romeo Ranoco-REUTERS

「ロシアとインドの外相が、南シナ海における中国の立場を支持」

 中国メディアの見出しである。誇らしげでもあり、嬉しげでもある。2016 年4月18 日、モスクワにおいて、第14 回中ロ印三カ国外相会談が行われ、共同声明が出された。先の新聞記事の見出しは、この共同声明のことを指している。

 共同声明は、「中国、ロシア及びインドは、『国連海洋法条約』に体現される、国際法の原則に基づいた海洋法による秩序を保護することに同意した」としている。また、あらゆる争議は、当事国が交渉と協議を通じて解決しなければならないとも言う。そして、外相たちは、『国連海洋法条約』及び『南シナ海行動宣言』を遵守し、『南シナ海行動宣言』を確実に履行して行動指針につなげることを呼びかけた。

 これらが、「中国の立場を支持する」ことを意味すると言うことは、「中国は『国連海洋法条約』を遵守しており、『南シナ海行動宣言』に則って行動している」と、中国が認識していると述べているに等しい。

 ここに、米国と中国の認識の差がある。2015 年7 月1日、米統合参謀本部が発表した、『国家軍事戦略』は、米国の安全保障を脅かす国家として、ロシア、イラン、北朝鮮に続いて中国を挙げ、南シナ海での岩礁埋め立てなどが「国際的なシーレーンにまたがった軍事力の配置を可能にする」と警戒感をあらわにした。

 日本や米国は、中国の南シナ海における行動が、一方的であり、軍事力を用いて強引に現状を変更するものであると認識している。中国は、『国連海洋法条約』が認める「無害通航権」を、国内法である『領海法』をもって拒否し、『国連海洋法条約』が定める「暗礁は領土と認められない(したがって領海は存在しない)」という規定を無視し、暗礁を埋め立てた人工島を以て領土とする。そのやり方が、国際秩序に反した実力行使であると米国は非難するのだ。

【参考記事】ベトナムの港に大国が熱視線「海洋アジア」が中国を黙らせる

 米国が警戒感を強めるのは、中国の主張と行動が一致しないからである。2015 年9月の米中首脳会談において、習近平主席は、「スプラトリー諸島(南沙諸島)は、軍事化しない」と明言した。その後、王毅外交部長も、南シナ海について、同様の主張を繰り返している。

 しかし実際には、スプラトリー諸島に限定しても、中国は、段階的に、しかし着実に軍事化を進めている。中国が、複数の人工島に対空レーダー等の施設を設置し、2016 年2月22日には、クアテロン礁に高性能の高周波レーダーを設置したことが明らかになったのだ。

 レーダーだけではない。実際に航空機の運用も開始された。2016 年1月6日、中国政府は、中国南方航空と海南航空の旅客機をそれぞれ1機ずつ借り上げ、スプラトリー諸島のファイアリークロス礁に着陸させた。中国は、試験飛行であるとしている。この時すでに、オーストラリア国立大学戦略研究所の研究者も、メディアのインタビューに答えて、「中国軍機の人工島着陸は避けられなくなった」と指摘している。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

筆者の過去記事はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、安全保障上の脅威と見なす中国ハイテク企業への規

ビジネス

ロスネフチ独事業は制裁対象外、米政府が書面で確認=

ワールド

米ビザ、7―9月期の純収入は12%増

ワールド

ノルウェーの石油採掘許可は人権侵害に当たらず、EC
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 5
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 6
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 9
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story