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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
「ソニーらしさ」の勘違い
企画を思いついたのは一昨年暮れ。ソニーリーダーの機能に不満をもったジャーナリストの佐々木俊尚氏が「ソニーは死んだ」とツイートしたところ、賛同と反発で佐々木氏のタイムラインが「祭り」状態になったのがきっかけだった。ソニーがiPadとiPhoneで世界を席巻するアップルに、すっかり革新的ブランドとして立場を逆転されたことは誰の目にも明らかだ。驚いたのは日本人がまだソニーをあきらめておらず、かなりの人の心の中に「ソニー愛」とでもいうべき感情が残っていたことだった。
「ソニー復活のきっかけを探る特集ができれば、日本人に元気を出してもらえるかもしれない」。そう考え、企画のためのリサーチを始めた。ただ基本情報を漁っても、相談に乗ってもらったソニーウォッチャーと喫茶店で頭を絞っても、有力な「処方箋」は見えてこない。そうこうしているうちにソニーの業績は悪化を続け、「ソニーの処方箋」と仮のタイトルをつけた企画書もお蔵入り。挙句の果てに、企画書に「処方箋その2」として書いたストリンガー会長交代が現実になった。
日本の製造業が物質面でも精神面でも、第二次大戦後の日本社会と日本人を牽引してきたことに議論の余地はない。世界に冠たるメード・イン・ジャパンは日本人の誇りで、その中でもソニーは世界の人々に「新しい生活」を提供できる特別な存在だった。そのソニーが99年にロボット犬AIBOを発売してから一向に世界を驚かすヒット商品を作り出せなくなったことに、日本人は傷ついている。ソニーをあからさまに批判する人もいるが、それは「ソニー愛」の深さゆえの裏返しといっていい。
ただ、時に過剰に、時にゆがんだ日本人の「ソニー愛」がかえってこの会社をダメにしているのではないか。ソニーが下降線をたどる様を1年半にわたってつぶさに見続けているうち、そう感じるようにもなった。
昨年夏、ソニーはフルモデルチェンジしたノートパソコン「バイオZ」を大々的に売り出した。確かにその高機能は薄型ノートパソコンの概念を破壊したバイオシリーズの最高傑作と呼ぶのにふさわしいが、値段は20万円台(当時)。8万円台で十分な機能があって使いやすいMacbook Airをつくるアップルと、ボリュームゾーンを他社に食いつくされてハイスペックを掘り下げるしかなくなったソニーの差をこれほど如実にあらわす実例もない。ただファンの目にはまだ、そんなソニーが「あくなきハイスペック追求企業」と映る。
取材中、よく耳にしたのが「厚木を活用することが復活への近道だ」という話だ。「厚木」とはプロユース用の技術開発を行っている厚木市にあるテクノロジーセンターを指す。4月に就任した平井一夫新社長も「業務用の最先端技術を消費者向けに製品化するのが勝ちの方程式」と、「厚木」への期待を語った。確かに、ソニーにはテレビ局用に開発した技術を家庭用ベータ型録画機に転用した実績がある。平井新社長が「勝ちの方程式」で具体的にイメージしているのは、次世代ハイビジョン技術4K規格のテレビだろう。
ただ、高性能・高機能を掘り下げるだけではソニーの復活にはつながらない。日本人も、そしてソニー自身も「ソニーらしさ」を勘違いしている。勘違いにはさまざまな原因があるが、日本人の国民性にもその一因はある――。企画案「ソニーの処方箋」は、1年半経って現在発売中の本誌特集「ソニーと日本人」になった。
ソニー自身そして日本人は「ソニーらしさ」をどう勘違いしているのか、日本人の何がソニーをダメにしているのか、そしてソニーはどうすべきなのか。詳しくは特集をお読みいただきたいが、ソニーが「ソニーらしさ」を再発見できるかどうかは、この日本を代表する企業にとって決定的に重要だ。なぜなら白物家電のあるパナソニックとも、重電や情報システムがメーンの日立、三菱電機とも違って、デジタル機器が売れなければソニーにはエンターテイメントと金融しか残らないからだ。
そんなソニーをもはや誰もソニーと認めないだろう。
――編集部・長岡義博(@nagaoka1969)
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