コラム

奥田君インタビューはそんなにひどくない

2011年02月26日(土)17時15分

 ニュージーランド地震で足を切断しながら生還した奥田建人君へのフジテレビ「とくダネ!」のインタビューがひどいという批判がツイッターやネットで広がっている。まだ見ていない人は、実際に映像を見て欲しい

 そんなにひどいだろうか?

 インタビュアーがむりやり言葉を引き出そうとしているわけでもないし、足を切断したという相手の状況にそれなりに配慮した聞き方をしている。プロの記者が奥田君に話を聞いて「足切断」について聞かないことはありえない。

 おそらく初出と見られる朝日新聞2月23日付夕刊の五十嵐大介記者の記事も、奥田君が足を切断した事実について触れている。足切断の事実と、「仲間がどんどん下に落ちていった」という表現があってはじめて、今回の地震の被害の大きさと、今後議論になるだろうニュージーランドの建造物の耐震構造問題の深刻さが読者に伝わる。繰り返すが「かわいそうだから聞かない」というのは、職業人としての記者のやることではない。

 ネットの怒りがフジテレビに向いているのは、あえていえば「八つ当たり」だろう。奥田君はこんな悲惨な目に遭いながら、なお快活さを失わないとても性格のいい青年だが、そんな彼がいわれのない被害にあったことへの憤りのターゲットにフジテレビがされてしまった――少なくとも筆者にはそう見える。

 ただ、このインタビューとメディアスクラムの問題は分けて考えるべきである。現地のニュージーランド・ヘラルド紙が24日、取材のため病院に無理に侵入しようとした日本人ジャーナリスト2人が逮捕された、という記事を流した。この情報が正しければ、おそらく朝日新聞に被災者取材で先行されたいずれかの社の記者(あるいはカメラマン)が、無理に取材しようとした可能性が高い。

 スクープを「抜かれた」社が、必死になって抜かれたネタをフォローするのは当然だ。ただそれは時と場合による。今回、おそらく奥田君の元に日本メディアの取材が殺到しているだろうが、本人の状況を考えれば、十数回も同じインタビューを強要することはメディアの側が遠慮すべきだろう。

 日本メディアが1つのネタに狂ったように殺到するのは、ひとえに「横並び」「均質性」という特性ゆえ、だ。「奥田君で抜かれたのなら、別のネタを探せばいい」などと言えるデスクは、今でもごくごく少数派のはず。多くはヒラメ会社員的発想から、「何が何でも奥田君インタビューを取れ!」と現場に厳命する。そしてその意を汲んだ「現場」は、ときに一線を踏み外した取材をしてしまう。

 本来されなくてもいい批判をされてしまうのは、いまだに冷静さを欠く取材を繰り返しているからにほかならない。

――編集部・長岡義博(@nagaoka1969)

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米自動車関税軽減、国内で車両生産の全メーカーが対象

ビジネス

米CB消費者信頼感、4月は5年ぶり低水準 期待指数

ビジネス

米3月モノの貿易赤字、9.6%増の1620億ドル 

ワールド

石破首相、フィリピン大統領と会談 安保・経済関係強
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 6
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story