コラム

記者会見は誰のものか

2011年01月10日(月)22時15分

 今週水曜日発売の本誌1月19日号のカバー特集は、日本の新聞がかかえる構造的な問題について考える「だから新聞はつまらない」。その取材のため、先週永田町の民主党本部に行き、岡田克也幹事長の定例会見に参加した。「取材の取材」をするためだ。

 まず驚かされたのが、会見場にノートパソコンを持ち込み、岡田幹事長のしゃべる内容を一字一句漏らさず書き起こす政治部記者が多かったこと。ざっと20人はいただろうか。筆者が現役記者だった10年前には見られなかった光景だ。先輩らしき記者たちはパソコンでなくノートに向かっていたから、質問係と筆記係に仕事を分けているのだろう。よく言えば必死に、悪く言えば狂ったように、岡田幹事長の顔も見ずキーボードを叩く姿を見て気の毒になった。

 会見では小沢元代表の政倫審出席問題と仙谷官房長官の交代問題に質問が集中したが、「質問係」から被取材者や筆者をうならせるキレのある質問は出なかった。官僚出身でもある岡田幹事長は言質を取らせない答弁の名手。記者の隔靴掻痒気味な質問を「ノーコメント」「この場でお答えする話ではない」と一蹴し続けた。

 記者たちの質問が隔靴掻痒になるのには、実はそれなりに理由がある。それぞれ日頃の独自取材で集めた「持ちネタ」があるはずで、それを会見の場でぶつけてしまうとライバル他社にみすみす特ダネを提供してしまうことになるからだ。ただ日本の記者会見がつまらないのは、それだけが原因ではない。

 記者クラブ「公開」の流れもあって、会見に新聞・テレビ以外のメディアやフリージャーナリストが参加するケースが増えた。最近彼らからの「既存メディアの記者の質問はありきたり」「あまりに不勉強で基本的なことばかり聞く」という批判と既存メディア側の反論がツイッターをにぎわせたが、これは記者クラブとクラブ主催の会見が長年「閉鎖」されてきたことと関係がある。

 会見が閉鎖されていれば、出席するのはいわば身内同士である既存メディアの記者だけだから、多少初歩的な質問をしてもそれをあからさまに批判されることはなかった。「少数エリート」の記者たちが非常に広いフィールドをカバーすることを求められてきたもの事実だ。しかし会見の開放で入ってきた外部の眼には、記者たちが未だに「少数エリート」の地位に甘んじて、不勉強なまま会見に出ているように映っている。

「メディアは旧態依然で古くさく、勉強していない。だから僕はネットに出る」と、民主党の小沢元代表は言った。小沢氏の「勉強していない」という言葉が的を射ているとは思わないが、それでも会見をしなければならない側に「勉強不足」で揚げ足を取られるのは、いかにもまずい。

 自分が出席する会見で、常に100%キレのある質問をできる自信はない。それでも記者たちが「会見は自分たちだけのもの」「どうせ突っ込んだことは聞けない」という意識を変えなければ、記者会見はますます形骸化し、被取材者たちはニコニコ動画やユーストリーム、あるいはYouTubeだけに出るようになってしまう。それはこの国のジャーナリズムと民主主義にとって、決していいことではない。

 記者会見をあきらめるのは早過ぎる。

――編集部・長岡義博(@nagaoka1969)

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費

ビジネス

日産とルノー、株式の持ち合い義務10%に引き下げ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story