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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
タイ「内戦」の愚かさ
タイの首都バンコクの金融街で22日夜、タクシン派のデモに反対する集会に小型砲弾が連続して打ち込まれ、3人が死んだ。
「小型砲弾」はM79グレネードランチャーと呼ばれる小型火器から発射されたとみられている。M79グレネードランチャーは米軍が開発した歩兵を支援するための武器で、主にベトナム戦争で使われた。
今年1月と今月7日、バンコクの陸軍本部に同じM79グレネードランチャーが打ち込まれる事件があり、1月の事件では、警察がタクシン派の陸軍幹部の自宅を捜索した。
アピシット首相が党首の民主党本部にも今月6日、M79グレネードランチャーから発射されたとみられる砲弾が打ち込まれ、警官2人が負傷した。22日にはバンコク郊外にあるジェット燃料貯蔵タンクにこの小型火器からの砲弾が打ち込まれた。
必ずしもすべてがタクシン派の犯行ではないかもしれない。反タクシン派の自作自演の可能性もある。でも、殺傷力の強い小型火器が首都でこれほど頻繁に発射される国を「微笑みの国」と呼ぶのは、もはやブラックジョークでしかない。
08年11月、反タクシン派の市民団体PAD(民主主義市民連合)が空港を占拠。タクシン派のソムチャイ政権を退陣に追い込み、アシピットが首相の座についた。当時、空港占拠によってタイ経済はマヒしかけた。
今度はタクシン派がバンコクの金融街を占拠し、金融危機後ようやく出口の見えかけたタイ経済を人質に政権を奪還しようとしている(香港のアジア・タイムズによれば、タクシン派が金融街に居座っているのは、反タクシン派の企業の本社があるからでもある)。
まだ誤解している人がいるかもしれないが、現在起きているタイの騒乱は民主化運動でも何でもない。極論すれば、都市中流層と農村貧困層の間のカネの奪い合いである。まともな国なら議会で話し合うところを、空港や金融街を占拠し、あげくの果てに内戦まがいの砲撃戦をやっている。
アジア・タイムズの記者と話した経済アナリストや外国人投資家の間には、アピシット首相の退陣と元陸軍司令官のチャワリット元首相(77)の再登板を求める声があるという。
収拾がつかなければ、また軍のクーデターが起きる可能性もある。すべてを力で解決しようとする国を、国際社会は民主主義国家と認めるべきではないと思う。
――編集部・長岡義博
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