コラム

イ・チャンウォン、イム・ヨンウン... アジアの情感にじむ韓国音楽トロット、日本でもブレイクか

2024年06月27日(木)11時35分
ASIA ARTIST AWARDSで5冠を受賞したイム・ヨンウン

現在のトロット界のトップランナー、イム・ヨンウン。写真は2023年ASIA ARTIST AWARDSで5冠を受賞したときのようす Star News via Reuters Connect

<アイドル以上にディープなコアファンがいる韓国版演歌「トロット」、いよいよ日本に上陸へ>

韓国では、日本の演歌に似た音楽を「トロット」と呼ぶ。近年、このジャンルが異例の盛り上がりを見せており、今や日本の一般リスナーの耳にも届こうかという勢いである。

このようなことを書くと、「大げさじゃないか」とクールに受け止める人もいるかもしれない。しかしながら、現地ではトロット関連のオーディション番組はいずれも注目度が高く、そこから登場したスターも多い。ちなみにK-POPアイドル系のオーディション番組のほうは食傷気味で、ヒトケタ台の視聴率もめずらしくないのが現在の状況である。対してトロット系のそれは17~35%と高視聴率をたたきだしており、この点だけでも同ジャンルの人気ぶりが分かるだろう。

チャートアクションもすこぶる良い。数年前まではベスト10にランクインするトロットは"ほぼゼロ"状態だったが、最近はNewJeansやStray Kids、aespaといったK-POPアイドルの大物たちと同じよう な売り上げを記録する曲も出てきている。最近の例では、今年5月にトロット系男性シンガーのイ・チャンウォンが歌う『空の旅』が地上波の音楽番組で1位に。同ジャンルの歌手のうち、初めて地上波の音楽番組でトップに輝いたのはチャン・ユンジョンで、2005年のこと。その後はカン・ジン(2007年)、イム・ヨンウン(2021年)と続き、イ・チャンウォンは約3年ぶり4人目の快挙となった。


幼い頃からKBS「全国のど自慢」などに出演し「トロットの神童」として知られたイ・チャンウォン 이찬원 / YouTube


彼は男性トロット歌手専門のサバイバルオーディション番組「明日はミスター・トロット」(2020年放送)の出身で、ここで3位に入ったのを機にプロの道へ。21年夏の正式デビューからずっと芸能界のメインストリートを歩いてきた売れっ子だ。大ヒットした『空の旅』は本人が作詞・作曲したもので、老夫婦が生きてきた日々を振り返る様子を、ゆったりとしたリズムに乗りながら穏やかな声で表現する。こうした割とシブめの歌詞を20代の男性が歌う、いわゆる"反転魅力(ギャップ萌え)"がメガヒットした最大の要因だったのだろう。

トロット界の"アイドル"イム・ヨンウン

イ・チャンウォン以上に世間を賑わせているのが、先ほど名前が出たイム・ヨンウンだ。彼も「明日は...」出身の男性シンガーで、同番組でトップになってからはコンスタントにヒット曲を連発。イ・チャンウォンが比較的トロットの王道路線を大切にするのに対し、イム・ヨンウンはそれ以外にもロックやバラードも歌いこなし、ときにはEDMにまで手を出してしまう柔軟な姿勢がセールスポイントになっている。


イム・ヨンウンは、韓国企業評価研究所が発表した2024年6月度歌手ブランド評価でBTSに次いで2位という人気の高さを誇った。ちなみに3位はSEVENTEEN。 임영웅 / YouTube


このふたりは美意識やスタイルが異なるように見えるものの、人生の喜怒哀楽をナチュラルに見せる点においては共通しており、どちらも老若男女を問わず受け入れる敷居の低さもある。さらにステージ上でもプライベートでもポジティブかつ誠実な面が強く感じられるところが似ており、個人的にはこれらが今どきのトロット歌手の必須事項なのだと思う。

プロフィール

まつもとたくお

音楽ライター。ニックネームはK-POP番長。2000年に執筆活動を始め、数々の専門誌・ウェブメディアに寄稿。2012年にはK-POP専門レーベル〈バンチョーレコード〉を立ち上げ、イ・ハンチョルやソヒといった実力派を紹介した。現在は『韓流ぴあ』『ジャズ批評』『ハングルッ! ナビ』などで連載。LOVE FMLuckyFM楽天ポッドキャストの番組に出演中。著書は『K-POPはいつも壁をのりこえてきたし、名曲がわたしたちに力をくれた』(イースト・プレス)ほか。

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