コラム

英議員、コロナワクチンは「ホロコースト以来最大の犯罪」...「ワクチン離れ」に強まる懸念

2023年01月18日(水)17時48分
ロンドンのワクチン接種会場

ロンドンのワクチン接種会場の様子(2021年12月) Hannah McKay-Reuters

<一方で短い間隔で追加接種を繰り返すことについては、欧州医薬品庁も「持続的な長期戦略とは言えない」としているが>

[ロンドン]欧州連合(EU)からの強硬離脱を牽引した英国の与党・保守党アンドリュー・ブリジェン下院議員が新型コロナウイルスのワクチンについて「心臓専門医は私に『ホロコースト以来最大の犯罪だ』と語った」とツイートし、党籍を剥奪された。ワクチンの普及で重症化や死者が減る一方、接種疲れから反ワクチン派が勢いを増す恐れがある。

ブリジェン氏は自らの処分について「失望した。民主主義の現状、言論の自由、何十億もの人々に投与されている医薬品の科学的分析が明らかにマヒしていることを雄弁に物語る。m(メッセンジャー)RNAワクチンの安全性と有効性に関する合理的な疑問はこれからも問われ続けなければならないし、私はそれを(無所属で)問い続けるつもりだ」と反論した。

「一般の人々、発言できない医療従事者、自分自身がワクチンの害を経験した人々から大きな支持を受けている」とブリジェン氏は強弁する。ソーシャルメディアや下院で反ワクチンの主張を繰り返してきたが、「ホロコースト以来最大の犯罪」というツイートで「一線を越えた」として、リシ・スナク首相や党のサイモン・ハート院内幹事長らに引導を渡された。

ブリジェン氏は「言論の自由」を旗印にするブログ「ゼロヘッジ」からワクチンの副反応データをツイッターに投稿した。それによると、米国でこの2年以内にmRNAワクチンについて報告された重篤な副作用の数は、2009年以降、成人に投与されたワクチンに関するすべての重篤な副作用の5.5倍だという。真偽の程は不明である。

「ワクチンに賛成、反対という思想信条は科学ではない」

EU離脱を強行したブリジェン氏ら英国のリバタリアンたちは米国のドナルド・トランプ前大統領の支持者に似ている。政府の介入を排除する「間違った自由主義」を信奉し、ロックダウン(都市封鎖)やマスク着用に反対する。気候変動対策も「神の見えざる手」に委ねよと排他的に主張する。感情的で傲岸不遜なリバタリアンは科学にとって妨げでしかない。

英オックスフォード大学ワクチングループのアンドリュー・ポラード教授は「ワクチンの安全性と有効性に関する仮説は臨床試験で厳密に試され、データは研究者や独立した専門家の検証を受けることが不可欠だ。ワクチン接種に賛成する、反対するという思想信条は科学ではなく、最善の政策を決定する上で果たすべき役割はない」と語る。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税巡る市場の懸念後退 猶予期間設定で発動

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story