コラム

狙え!65兆円市場 100万人を超えた外国人労働者が日本に招き寄せたロンドンの国際送金フィンテック

2017年06月30日(金)16時30分

昨年9月に発表された国連の「国際移民報告書2015年」によると、ベルリンの壁が崩壊した後の1990年から2015年にかけ、国際移民の数は9100万人以上、60%も増え、2億4400万人に達した。このうち58%が先進国で暮らしている。21世紀に入って最初の10年間は毎年490万人ずつのペースで増加した。その前の10年間は毎年200万人だったから、凄まじい勢いで増えた。

2億4400万人と言えば、インドネシアの人口に匹敵する規模だ。メキシコからアメリカへ、欧州連合(EU)域内の旧共産圏諸国からイギリスへの出稼ぎ移民の大移動は、アメリカ大統領ドナルド・トランプの誕生とイギリスのEU離脱の引き金となった。

人・モノ・資本・サービスの移動を容易にしたグローバル化の進展もあるが、アメリカとイギリスが主導したイラク戦争、中東民主化運動「アラブの春」に端を発したシリア内戦の悪化による難民の発生も国際移民激増の大きな原因だ。
kumura20170630110103.jpg

世界銀行の統計によると、国際移民の激増に伴って、1990年には640億3400万ドルだった移民の国際送金(流入額の合計)も2015年には5824億4900万ドルに膨れ上がっている。日本円にして約65兆3000億円の海外送金市場が突如として出現したわけだ。ワールドレミットも、昨年に日本に上陸したイギリスの国際送金サービス「トランスファーワイズ」と同じように、急成長するこの市場にビシネスチャンスを見出している。

移民や難民の受け入れに固く門戸を閉ざしてきた日本の在留外国人数(238万2822人)の総人口(1億2682万人)に占める割合は1.9%弱。しかし少子高齢化が進む日本は外国人労働者に働いてもらわないと人手不足で回らなくなる産業が増えたため、「研修生」「技能実習生」「留学生アルバイト」という名目で事実上の移民を受け入れている。

日本に滞在する外国人が本国の家族や兄弟に送金する実態についてはほとんど知られていない。不法滞在の労働者が地下銀行を使って送金するケースが報道されることはあっても、外国人労働者を支援しようという視点からの合法サービスはこれまで全くなかった。そもそも銀行口座を開設できる人がどれほどいるのだろうか。

日本人海外居住者の立場からすると、日本から海外へ送金する手続きは、犯罪やマネーロンダリング(資金洗浄)を防止するためとは言え、非常に煩雑だ。為替や送金の手数料もそれほど安くない。

外国人労働者が手軽に本国に送金できるようになれば、日本での勤労意欲も増し、途上国経済の成長にもつながる。ワールドレミットは銀行の送金手数料より安い料金を設定しているが、大量の利用者を獲得できれば利益も見込める。

日本では銀行以外の送金サービスは資金移動業と呼ばれ、2010年に解禁された。ロンドン発のフィンテックが闇の中に沈みがちな日本の外国人労働者の生活に明かりをともしそうだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story