コラム

トランプ氏が英国独立党党首ファラージを駐米大使に指名?──漂流する米英「特別関係」 

2016年11月24日(木)20時00分

先週、ニューヨークのトランプタワーを訪ねたファラージュ(右) Nigel Farage/Twitter

 本当に世界はどこへ向かおうとしているのだろう。英国の欧州連合(EU)離脱決定に続く、米大統領選での暴言王ドナルド・トランプ氏(70)の勝利。笑うに笑えないニュースが連日のように報じられている。英国では、トランプ氏がツイッターに「多くの人々が、英国独立党(UKIP)の暫定党首ナイジェル・ファラージ氏が駐米大使として英国を代表することを願っている。彼は偉大な仕事を成し遂げる」(11月22日)と書き込んだことで激震が走っている。

 EU国民投票に際し、英国は、米国のオバマ大統領から「EUに加盟していることが英国の国力を増している」「もし英国がEUを離脱したら、新しい貿易協定のための交渉は一番後回しになる」と突き放された。今度は英国外交の最重要ポストである駐米英国大使について、次期米大統領のトランプ氏に「ファラージ氏だ」と逆指名されたメイ英首相の心境は穏やかではないはずだ。

天才的ポピュリスト

 UKIPのファラージ氏は、EUや欧州単一通貨ユーロの創設を定めたマーストリヒト条約を英国が批准したことをきっかけに英保守党と袂を分かち、以来、約四半世紀にわたって英国のEU離脱を叫んできた。反グローバリゼーション、反移民、反エスタブリッシュメント(体制側の支配層)のレトリックを駆使し、有権者の不安や不満、心の底に眠る怒りをかき立てて票につなげていく天才的ポピュリストだ。

 米大統領選最中の今年8月、ファラージ氏はトランプ氏応援のため米ミシシッピ州の集会場に駆けつけた。その際、トランプ氏は支持者の前で「英国のEU離脱決定の立役者」とファラージ氏を紹介した。一方、ファラージ氏はトランプ氏の当選後、「トランプ氏は英国のEU離脱を支持した。米国は、EUを離脱した後の英国と真っ先に貿易協定交渉を進めると言ってくれている」と持ち上げた。

 駐米英国大使に、という要請については「もし次期米大統領が私に仕事をくれるのなら(駐米英国大使より)駐EU米国大使に任命してほしい。そうしてくれたら、本当に良い仕事をするだろう」と本気とも冗談ともつかぬ反応を見せた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story