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ロンドン市長選で「トランプ流」はなぜ、受けなかったのか
カーン(左)の勝利演説に耳を傾けるゴールドスミス(5月7日) Toby Melville-REUTERS
英国では今、雑草でも奇跡は起こせるという眩しい光と、社会を2つに分断しようという暗雲が交錯している。光とは、日本代表FW岡崎慎司選手が所属するレスター・シティが5001分の1というハンディをものともせず、サッカーのイングランド・プレミアリーグで初優勝を果たしたことだ。
英国が「暗黒の水曜日」と呼ばれるポンド危機に見舞われた1992年に発足したイングランド・プレミアリーグは、あらゆる規制を取り払い、世界中の才能とマネーを集めた。レスターのオーナーはタイの免税店「キング・パワー」を経営するヴィチャイ・スリヴァッダナプラバ氏。監督はイタリア人のクラウディオ・ラニエリ氏だ。
岡崎選手以外に主力選手のMFマフレズ(アルジェリア)、MFカンテ(フランス)、GKシュマイケル(デンマーク)など外国人選手は登録選手の3分の2。レスターという地域は2011年の国勢調査で人口32万9千人のうち白人の英国人が占める割合は45%。全国平均の80%に比べ、かなり多文化・多民族化が進む。
20年余り前、イングランド出身選手がピッチに立つ時間はプレミア全体の69%。それが2013/14年シーズンには32.36%にまで減った。肝心のイングランド出身選手がプレミアでプレーできなくなったことが代表チームの弱体化につながっているとして、イングランドサッカー協会(FA)は45%に引き上げると宣言した。
サッカーとロンドン市長選
優勝がかかったマンチェスター・ユナイテッド戦を地元レスターのパブで観戦したが、肌の色や宗教、言語、出身国の違いなんて誰も気にしない。レスターは時代が変わっても「132年の歴史を誇るオラがチーム」なのだ。クラブを中心とした小宇宙がそこにはある。「超二流」ぞろいのレスター・イレブンは団結して、縦横無尽にピッチを駆け巡った。
金に糸目をつけず超一流スターをそろえるビッグクラブからは感じられないひたむきさと情熱に英国中が感動した。違いが緊張をもたらし、それを乗り越えることによって飛躍が生まれる。限界と倦怠を漂わせ始めたグローバリゼーションの新たな可能性をレスターは示したと言っても決して大げさではない。
これに対して、胸糞が悪くなったのがロンドン市長(任期4年)選で労働党サディク・カーン氏(45)に大差で敗れた保守党ザック・ゴールドスミス氏(41)がとった選挙戦術だ。20代まで公営住宅の2段ベッドで寝起きしていたカーン氏はパキスタン系移民で、父親はバス運転手だった。弁護士時代のイスラム過激派との接点がロンドン市長選でやり玉に挙げられた。