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シリアからのサプライズ撤退を発表したプーチン大統領の権謀術数 ターゲットはメルケル独首相だ
シリアからの撤退は四面楚歌のメルケル懐柔策? Maxim Shemetov- REUTERS
3月14日、ロシアの大統領プーチンが突如としてシリアから撤退を始めるようロシア軍に命令した。昨年9月末、窮地に追い込まれたシリアの大統領アサドを助けるためロシアは空爆を開始した。ターゲットは過激派組織ISではなく、アサド政権を追い込んだ反政府勢力。息を吹き返したアサドは一時停戦の発効で体制の存続が保証されたかたちとなり、プーチンは所期の目的を達成した。
戦略家プーチンはロシア抜きでは何も始まらないという現実を米大統領のオバマら欧米の政治指導者に見せつけ、ロシア海軍の補給地タルトゥス港やラタキア空軍基地といったシリア国内の軍事的要衝を確保した。シリア空爆はロシア軍需産業のショーケースにもなったはずだ。それにしてもプーチンはなぜ、このタイミングで撤退を発表したのだろう。オバマへのメッセージか。それとも、13日にドイツの3州で行われた州議会選挙で難民への門戸開放で有権者から厳しい審判を受けた独首相メルケルへの心理作戦か。
プーチンの狙いはウクライナ
プーチンの最終ゴールは言うまでもなくウクライナ危機をめぐる経済制裁の解除である。そりの合わないオバマより、ロシア語でプーチンとコミュニケーションが取れるメルケルがそのカギを握る。メルケルを陥落できれば、オバマも制裁解除に傾く可能性が大きくなる。プーチンはこれまでメルケルと会談する際、メルケルが嫌いな犬をそばに控えさせるなど、常に心理ゲームを仕掛けてきた。停戦直前の「駆け込み空爆」にはアサド政権の優勢をさらに確実にする目的以上に、ロシアは難民を大量に発生させるカードを持っていることを示す思惑もあったに違いない。
【参考記事】ウクライナ問題、「苦しいのは実はプーチン」ではないか?
四面楚歌のメルケルにとって、プーチンの撤退発表は唯一と言っても良いグッドニュースだ。もし一時停戦が反故にされたら、メルケルが取りすがる蜘蛛の糸がプツリと切れてしまう。プーチンはそんな心理効果を狙っているように筆者の目には映る。
反ユダヤ主義政策を実行したナチスが第二次大戦を引き起こした状況と異なり、70年以上前にはヒトラーと戦った米国や英国で皮肉にも反移民・反難民という排外主義が台頭している。米大統領予備選で反移民・反イスラムを公言する不動産王ドナルド・トランプが共和党の首位を走り、英国の欧州連合(EU)国民投票では離脱派と残留派が49対51で大接戦を繰り広げている。EU離脱派を後押しするのは移民や難民への警戒心だ。自分で国民投票を呼びかけた英首相キャメロンは今、火消しに躍起になっている。そして、ドイツでもシリア危機で昨年110万人の難民が押し寄せたことで排外主義が一気に高まった。
ヨーロピアン・ソリューションを
ドイツの3つの州議会選の結果が何を物語るのかを、正確に理解するために独公共放送ARDのデータをもとに得票率の増減グラフ(上)を作ってみた。一番大きな特徴は、反移民を掲げる新興政党「ドイツのための選択肢」(グラフ右側の濃青色のグラフ)が歴史的な躍進を遂げたことである。もともと「ドイツのための選択肢」は欧州債務危機の際、単一通貨ユーロの構造的な欠陥を指摘し、ユーロ解体を主張していたが、今では欧州統合の「移動の自由」がもたらした移民や難民の拡大に異を唱え、支持者を急激に増やしている。先の大戦以来、ドイツで右派政党が躍進するのは初めてのことだ。