コラム

2016年の世界経済のカギを握るのはやはり原油価格

2016年01月05日(火)15時45分

このまま先進国経済が原油安のメリットをうまく享受していけば、2016年の世界経済は比較的安定的に推移することになるが、気になるのは米国が持つ石油に関する二面性だ Shotbydave-iStcokphoto.com


〔ここに注目〕価格低下の長期的な影響

 昨年は原油価格と中国経済に振り回された1年だったが、2016年についても、引き続き原油価格の動向が世界経済のカギを握ることになるだろう。ただ、原油価格の低下には短期的な影響と長期的な影響があり、短期的な影響は徐々に収束に向かうことになる。先進国経済にとっては、徐々にプラスの影響が大きくなってくる可能性が高い。

 少々気になるのは、世界経済がすべて米国の内需に依存している点である。米国は世界最大の石油消費国であると同時に、世界最大の産油国でもあり、原油価格低迷からはプラス・マイナス両方の影響を受ける。ロシアなど原油価格低迷によって打撃を受けている国からの資金流出が続けば、金融市場の混乱が長引く可能性もある。

中東全体より「米ロ+サウジ」の方が産出量が多い

 原油価格低迷の影響を正しく分析するには、そもそも原油がどの地域で、どの程度の量、生産されているのかを正確に把握する必要がある。

 世界でもっとも大量に石油を生産しているのは米国で、1日あたり1200万バレルの生産量がある(2014年)。2番目はサウジアラビアで1200万バレル弱の生産量となっている。サウジアラビアは2013年まではトップの生産量を誇っていたが、米国の生産量が増大したことで1位の座を明け渡した。3番目はロシアで1100万バレルの生産量がある。

 全世界的に見るとこの3カ国が石油の3大生産拠点であり、全世界の産出量の4割を占めている。石油の多くが中東で産出されているというイメージがあるが、中東の産油国をすべて足し合わせても全体の3割程度であり、トップ3カ国よりもシェアが低いというのが現実だ。

 OPEC(石油輸出国機構)は原油市場に絶大な影響を持っているといわれているが、現実にはOPECに影響力があるのではなく、その中で突出した産出量を誇るサウジアラビアの影響力が大きいと考えるべきである。最終的には米国とサウジアラビアの意向で原油価格が決まってくる図式だと見た方がよい。

 ロシアは米国とサウジアラビアに次ぐ石油大国だが、市場の価格形成にあまり影響力を行使できていない。その理由は2つあると考えられる。ひとつは、ロシアにはグローバルに通用する金融市場がなく、市場に対する介入余地が小さいこと。もうひとつは、ロシアの原油採掘コストがかなり高く、価格競争力がないことである。

原油価格低迷の長期化で打撃を受ける国は?

 昨年末、OPECが減産を見送る決定を行ったことで、原油価格低迷が長期化することはほぼ確実な状況となった。OPECが減産を見送った最大の理由は、採掘コストの安いサウジアラビアが体力勝負に出たことであり、表向きは米国のシェールガス事業者への対抗措置ということになる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防

ワールド

アングル:トランプ氏のカナダ併合発言は「陽動作戦」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story