コラム

賃金格差の解消こそが女性の雇用を後押しする

2015年08月03日(月)16時40分

 前回、日本の非正規労働者は国際水準に比べて保護されてない状況があるとお伝えしました。今回はその続きとなります。非正規雇用の問題は今や女性の就労とも大いに関わること。既に炎上済みですので、今さら言うまでもありませんが、「すべての女性が輝く社会づくり」を提言するならトイレの話をしている場合ではありません(「キャラ弁」にしても、「トイレ」にしてもなぜゆえこうした材料をよりによって選んでくるのか理解に苦しみますが)。快適なトイレ事情を追求することを否定するつもりは全くありませんが、トイレという空間を輝かせることと、それを利用する人たちが輝くこととは全く別のはず。

 女性が生きやすい社会=すべての人が生きやすい社会。本気で「暮らしの質」の向上を政府が考えるのであれば、例えば女性の就労が多い非正規事情などを鑑みるべきでしょう。そのためには、専門家の間で指摘されていることではありますが、兎にも角にも惨憺たる有様と称される日本のILO(国際労働機関)条約の批准状況の改善が求められます。安保法案の陰にすっかり隠れてしまっていますが、先ごろ衆議院を通過した労働者派遣法改正案は7月30日から参議院での実質審議に入りました。実質的に「同一賃金・同一労働」が骨抜きとなった内容は国際労働基準(International Labour Standards)に照らし合わせ、根本的に見直す必要があります。

 総務省が発表した労働力調査によると、2014年(平均)の役員を除く雇用者は5240万人。うち、正規労働者は前年比16万人減少して、3278万人。一方、非正規労働者は56万人増の1962万人。雇用者全体の37.4%を非正規労働者が占めている状態です。前回、OECDデータによる国際比較で、日本の非正規労働者の割合は先進国の中でも多いことに触れました。雇用形態の多様化はグローバルに見られる傾向ですが、日本が抱える最大の問題は、正規労働者と非正規労働者の待遇に大きな格差があることです。

 欧州でもパートは多く、オランダなどは日本以上の非正規労働者の比率となっています。日本との決定的な違いは、オランダでは同一労働であればパートもフルタイムも同一賃金が徹底されていること。例えば日本では賃金総額に占めるボーナス(賞与)の割合が非常に高いのが特徴ですが、法令で賞与に関する規定が特にないために、支給の有無も含めそれぞれの会社の裁量次第となっています。ボーナスは正規労働者あるいはフルタイムだけとする企業がほとんどでしょう。そのため、同一労働をしていたとしても日本のパートの賃金が圧倒的に低くなってしまう、ということがあります。

 ILO条約175号「パートタイム労働に関する条約」では、パートタイムとフルタイムの均等待遇を規定しています。「同一労働・同一賃金」が遵守されるべきと規定しているのがこの条約ですが、日本はこれを批准していません。オランダは当然のことながら、やはり非正規労働者の比率が高いオーストラリアもこの175号を採択しています。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税

ワールド

ルビオ氏「日米関係は非常に強固」、石破首相発言への

ワールド

エア・インディア墜落、燃料制御スイッチが「オフ」に

ワールド

アングル:シリア医療体制、制裁解除後も荒廃 150
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 6
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 7
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story