賃金格差の解消こそが女性の雇用を後押しする
前回、日本の非正規労働者は国際水準に比べて保護されてない状況があるとお伝えしました。今回はその続きとなります。非正規雇用の問題は今や女性の就労とも大いに関わること。既に炎上済みですので、今さら言うまでもありませんが、「すべての女性が輝く社会づくり」を提言するならトイレの話をしている場合ではありません(「キャラ弁」にしても、「トイレ」にしてもなぜゆえこうした材料をよりによって選んでくるのか理解に苦しみますが)。快適なトイレ事情を追求することを否定するつもりは全くありませんが、トイレという空間を輝かせることと、それを利用する人たちが輝くこととは全く別のはず。
女性が生きやすい社会=すべての人が生きやすい社会。本気で「暮らしの質」の向上を政府が考えるのであれば、例えば女性の就労が多い非正規事情などを鑑みるべきでしょう。そのためには、専門家の間で指摘されていることではありますが、兎にも角にも惨憺たる有様と称される日本のILO(国際労働機関)条約の批准状況の改善が求められます。安保法案の陰にすっかり隠れてしまっていますが、先ごろ衆議院を通過した労働者派遣法改正案は7月30日から参議院での実質審議に入りました。実質的に「同一賃金・同一労働」が骨抜きとなった内容は国際労働基準(International Labour Standards)に照らし合わせ、根本的に見直す必要があります。
総務省が発表した労働力調査によると、2014年(平均)の役員を除く雇用者は5240万人。うち、正規労働者は前年比16万人減少して、3278万人。一方、非正規労働者は56万人増の1962万人。雇用者全体の37.4%を非正規労働者が占めている状態です。前回、OECDデータによる国際比較で、日本の非正規労働者の割合は先進国の中でも多いことに触れました。雇用形態の多様化はグローバルに見られる傾向ですが、日本が抱える最大の問題は、正規労働者と非正規労働者の待遇に大きな格差があることです。
欧州でもパートは多く、オランダなどは日本以上の非正規労働者の比率となっています。日本との決定的な違いは、オランダでは同一労働であればパートもフルタイムも同一賃金が徹底されていること。例えば日本では賃金総額に占めるボーナス(賞与)の割合が非常に高いのが特徴ですが、法令で賞与に関する規定が特にないために、支給の有無も含めそれぞれの会社の裁量次第となっています。ボーナスは正規労働者あるいはフルタイムだけとする企業がほとんどでしょう。そのため、同一労働をしていたとしても日本のパートの賃金が圧倒的に低くなってしまう、ということがあります。
ILO条約175号「パートタイム労働に関する条約」では、パートタイムとフルタイムの均等待遇を規定しています。「同一労働・同一賃金」が遵守されるべきと規定しているのがこの条約ですが、日本はこれを批准していません。オランダは当然のことながら、やはり非正規労働者の比率が高いオーストラリアもこの175号を採択しています。
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