zzzzz

コラム

日本が核武装? 世界が警戒するプルトニウム問題

2015年11月24日(火)16時30分

六ヶ所村の再処理工場。2016年3月に完成時期を設定している。Nife's photo:wiki commons

中国が日本の原子力政策を批判

 「日本が保有する核物質は核弾頭1000発以上に相当する。安全保障と兵器拡散の観点から深刻なリスクを生んでいる」

 「日本の原発再稼働と使用済み核燃料再処理工場計画は、世界を安心させるのではなく事態を悪化させる行動だ」

 「核兵器を保有すべきだと日本の一部の政治勢力が主張し、核兵器開発を要求している。世界は日本を注意すべきだ」

 中国の傅聡軍縮大使は10月20日、国連総会第一委員会(軍縮)で演説し、日本の原子力政策を批判した。中国の核弾頭の保有数は14年のストックホルム国際研究所の報告によれば、約250発と世界第4位(1位露8000発、2位米7300発、3位仏300発)。そしてアジアの安全保障に脅威を与えている。彼らが日本の原子力政策を批判する資格はない。

 しかし言うことにも一理ある。日本の保有する核物質プルトニウムの先行きが、不透明になっている。日本は48トンのプルトニウム(所有名義は各原子力事業者)を保有。プルトニウムは数キロで核弾頭が作れる。この消費のめどが立たず、世界の安全保障とエネルギーの一部専門家の間で懸念を持って注目されている。

世界は日本を「潜在的核保有国」とみる

 そして2018年には、余剰プルトニウムを日本は持たないことを定めた日米原子力協定の期限が切れる。米国は核兵器を拡散させないために、他国にプルトニウムを持たせない政策を行っている。しかし米国は、日本が同盟国であり高度な核技術を持つため、発電や研究に使うプルトニウムの使用を認めてきた。ところが日本がプルトニウムを減らせない。米議会や安全保障の研究者の間には、それを懸念する声が出ている。

 この協定は一般にそれほど知られていないが、日米の原子力での協力を約束した重要な外交上の取り決めだ。中国が日本のプルトニウムを公の場で責め立てることは、この協定の交渉に揺さぶりをかけ、日米同盟にくさびを打ち込もうとしているのだろう。外交巧者の中国政府は、日本の痛いところを突いてきた。

 「日本が核武装する」。日本人の大半はこうした話を荒唐無稽と思うかもしれない。ところが、世界では「日本は潜在的な核保有国だ」と性悪説で見ている。

 日本原燃(青森県六ヶ所村)の再処理工場では、ウラン燃料の濃縮施設が稼働し、使用済み核燃料の再処理施設がほぼ完成している。筆者は今年9月にここを取材する機会があった。今年はキャロライン・ケネディ米駐日大使が同所を視察に訪れるなど、国際的にも注目が集まる施設だ。この施設は、メディアの取材・公開される場所も限定されている。

プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指

ワールド

共和党員の10%、トランプ氏への投票意思が低下=ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    F-16はまだか?スウェーデン製グリペン戦闘機の引き渡しも一時停止に

  • 2

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 3

    インドで「性暴力を受けた」、旅行者の告発が相次ぐ...なぜ多くの被害者は「泣き寝入り」になるのか?

  • 4

    「人間の密輸」に手を染める10代がアメリカで急増...…

  • 5

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する…

  • 6

    「集中力続かない」「ミスが増えた」...メンタル不調…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 9

    34罪状すべてで...トランプに有罪評決、不倫口止め裁…

  • 10

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story