コラム

日本の警察は世界でも類を見ない巨大な顔認証監視網を持つことになるのか?

2020年09月08日(火)18時00分

これらの防犯カメラには顔認証システムは組み込まれていないが、顔認証システムを組み込んだ改札も導入されている。大阪メトロは4社(東芝インフラシステムズ、高見沢サイバネティックス、日本信号、オムロン)が参加する顔認証改札の実験を行った。

・コンビニなど小売店

ファミリーマートローソンセブンイレブンなどのコンビニ各社で顔認証システムの実験や試験的導入が始まっており、小売業で普及する兆しが出て来ている

・自販機

ダイドードリンコは顔認証自販機の実証実験を2020年7月3日から開始した。自販機は2019年12月末時点で4,149,100台あり、これらに顔認証システムが搭載されると一気に普及が加速する。

・ビルの入退管理、マンションの解錠管理、勤怠管理

ビルの入退管理マンションの解錠管理勤怠管理などさまざまな分野の入退管理に顔認証システムは使用されるようになっている。これらはあくまでも一例である。検索していただくとわかるが、他にもたくさん顔認証システムを利用したシステムが実用化され、導入されている。

ほとんどの顔認証システムはデータベースを持ち、そこに登録されているものと与えられた映像を照合する。そして、顔認証システムはかなりクリティカルな個人情報を含んでいる。これらのデータベースは慣例に従えば、「捜査事項照会書」の提示で警察は閲覧することができる。

今後の非常時映像伝送システムの範囲がどこまでおよぶのか不明であるが、もしコンビニなどの幅広い民間事業者の監視カメラにまでアクセス可能になるのであれば指名手配の犯人をきわめて効率的に迅速に発見する手段になり得る。同時に市民は生活のかなり細かいところまで警察の監視下におかれることになる。

他にも気になる点はいくつもある。問題はあくまで容疑者である(無罪の可能性がある)ということと、顔認証にはまだ精度上の問題と前回の記事で紹介したような偏りがあることだ。

アメリカでも日本でも抗議活動参加者や活動家(人権活動家、左派活動家など)やムスリムなどを監視している。こう書くと自分には関係ないと思う方も多いと思うが、医療費負担増や年金制度などごくふつうのデモの参加者も監視対象になっていた。警視庁公安部外事第三課から資料が漏洩した際には、テロとはなんら関係のない在日イスラム人まで監視対象となっていたことが明らかになり、経営するレストランの客も対象にされていた。テロとなにも関係なくてもひいきにしているレストラン、居酒屋、喫茶店、あるいはスポーツクラブなどに、テロに関わりがあると当局が考える人物がいれば監視対象になるのだ。

これまではデモに参加した人々の写真を撮り、尾行を行って本人を特定し、監視対象にしていたわけだが、顔認証システムが普及すれば、写真や映像を撮ってコンビニやマンション、顔認証改札の顔認証データベースと照合してすぐに本人を特定できる。コロナ陽性者と濃厚接触した人々を発見するのも容易だ。

補足であるが、FBIがリーガルマルウェアを使用した捜査を行うように日本でも政府機関がマルウェアを使用している可能性がある。前回の記事でご紹介した2014年8月に流出したガンマグループの情報の中に、日本の政府機関と交わしたメールも発見された。またた、ガンマグループのマルウェアのためのサーバーが日本国内に存在していたこともわかっている。これらから日本政府のいずれかの機関がガンマグループのマルウェアを利用していた可能性が指摘されている(『犯罪「事前」捜査』角川新書、2017年8月10日)。

最後に警視庁で最新の技術を駆使して捜査活動に当たっている捜査支援分析センター(SSBC)に触れておく。

・警視庁・捜査支援分析センター(SSBC)

警視庁・捜査支援分析センター(SSBC)は2009年警視庁刑事部内に約100人で発足した。『警視庁科学捜査最前線』(新潮新書、2014年6月16日)にその組織についての説明がある。第一捜査支援、第二捜査支援、機動分析の三つのセクションがあり、顔認証を行っているのは第二捜査支援の情報支援係だ。現場の防犯カメラなどの映像を入手して分析するのは機動分析の機動分析第一係および第二係となっている。

SSBCは画像の分析にあたって、DAIS(捜査支援用画像分析システム、粗い画像を鮮明にする)、撮り像と呼ばれる異なる規格の画像を取り込める装置、防犯カメラの位置がわかるカメラ設置場所データベースなどを保有している。

民間中心に広がる顔認証システム

中国やインドが政府主導であったのに対して、アメリカと日本は官民の協力で進んでいる。アメリカは相互の人的交流や技術交流などが盛んであり、日本では前述の非常時映像伝送システムが民間の監視カメラを統合管理できるようにしている。

次回は、犯罪の発生をAIによって予測する予測捜査について、アメリカと日本の状況を中心にご紹介したい。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story