ニュース速報

ワールド

アングル:にらみ合う中印の軍部隊、国境紛争がじわり再燃

2017年08月14日(月)15時56分

 8月8日、インドと中国の両軍が、国境地帯で7週間にわたり対峙している。写真は中国とインドの国旗。インドが実行支配するアルナーチャル・プラデーシュ州で2009年11月撮影(2017年 ロイター/Adnan Abidi)

[ニューデリー 8日 ロイター] - インドと中国の両軍が、国境地帯で7週間にわたり対峙している。関係筋2人によると、解決に向けた対話は決裂し、インド政府による外交努力は行き詰まりを見せている。一方、中国の国営メディアは「報復は避けられない」と喧伝(けんでん)している。

舞台となっているのは、インドの北東部シッキム州に近いブータン西部の係争地ドクラム高地で、中国とも国境を接している。

中国側の説明によると、6月初旬にインド軍が境界を越えて中国領に入り、中国の道路建設作業を妨害した。それ以降、インド陸軍と中国の人民解放軍が対峙を続けている。

中国は、中国とインドの同盟国であるブータンが領有権を主張するドクラム高地から、インドが軍を撤退させるよう要求している。

だが、インドが対話のなかで、見返りに中国に軍を250メートル後退させるよう提案したのに対し、中国は返答しなかったと、インドのモディ政権に近い関係筋は明らかにした。

中国は、水面下で行っていた外交戦略のなかで、政府高官から許可が得られるのであれば、100メートル後退するという案を持ち出して対抗した。

しかし、中国がドンランと呼ぶ同地域において、緊張激化の警告を強めていることを除いては、対話が再開されるという兆しはない。

「行き詰まっている。現在、全く動きがない」と、もう1人の関係筋は語る。

中国外務省はインドに撤退するよう繰り返し求めていたが、同省から対話についてのコメントは得られなかった。

インド軍は、道路が拡張されれば、北東部の同地域で中国軍が近すぎる存在となり、安心できなくなると主張している。

今回の対立は、1980年代に3500キロに及ぶ国境地帯で数千人規模の両軍兵士がにらみ合って以来、最も深刻なものだと、軍事専門家は指摘する。

中国はインドが道理をわきまえることを期待して、戦争に突入するのをとどまっていると、中国共産党機関紙「人民日報」系の国際情報紙である環球時報は8日伝えた。同紙は敵対的な解説を矢継ぎ早に掲載している。

「コントロール不能に陥りつつある状況から発せられる警告をモディ政権が無視し続けるなら、中国が報復措置に出ることは避けられないだろう」との見方を同紙は示した。

アジアの経済大国である中国とインドの2国間貿易が急増しているのとは裏腹に、今回の国境地帯における危機は、両国の外交関係が悪化した1年を象徴する出来事といえる。

インドは、最大のライバルであるパキスタンと中国との関係に懸念を強めており、インドが領有権を主張するカシミール地方を通る彼らの通商回廊は領有権の侵害とみなしている。

モディ首相は、中国の習近平国家主席が主導するシルクロード経済圏構想「一帯一路」に参加するのを拒否した。

一方の中国は、インドに対し、日本を含む米国主導の西側の軍事同盟に近づかないよう求めている。モディ首相は日米との関係強化を模索している。

「今回の対立にハッピーエンドはないだろう」と、インド外交政策の専門家であるC・ラジャ・モハン氏は印紙インディアン・エクスプレスでこのように指摘。インドが屈する可能性は低いとの見方を示した。

前出の2人目の関係筋は、来月に中国で開催されるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国)首脳会議に影響する可能性への懸念を示した。

<人海戦術>

インド軍当局者の話では、海抜3000メートルのドクラム高地で2カ月近く続いている、約300人の兵士がわずか100メートル離れた場所で対立している状況において、両軍ともに兵士増強はないという。

だが中国は、インドが部隊を集結させていると非難。国営メディアは1962年の中印国境紛争での敗北よりもひどい結末が待っていると警告している。

「われわれは問題を解決するため、中国と向き合っている。戦争では問題を解決できない」と、インドのスワラジ外相は議会でこう述べ、融和姿勢を改めて示した。

一方で、両国とも軍事力を誇示している。

中国は先月、にらみ合いが続くドクラム高地に近いチベット高原で実弾演習を実施したと、国営メディアは報じた。

一方、インド軍も、ドクラム高地からは遠く離れているものの、過去に係争が勃発したヒマラヤ山脈西部ラダック地方で、ひっそりと軍事演習を行った。

「衝突する可能性は低い。習近平氏が(今秋の)共産党大会前に戦争を始めるとは、誰も予想していない」と、インド首都ニューデリーにあるジャワハルラール・ネルー大学の中国専門家、スリカンス・コンダパリ氏は、習氏が党総書記2期目を承認されるとみられている5年に一度の党大会(10─11月)に言及しながら、このように指摘した。

(Sanjeev Miglani記者 翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米南部ハリケーン、100人超死亡 バイデン氏は被災

ワールド

原油先物横ばい、増産見通しが中東紛争拡大による供給

ワールド

ロシア副首相、産油国の投資確保を重視 OPECプラ

ワールド

ロシア大統領、安保会議にジュミン大統領補佐官ら若手
MAGAZINE
特集:大谷の偉業
特集:大谷の偉業
2024年10月 8日号(10/ 1発売)

ドジャース地区優勝と初の「50-50」を達成した大谷翔平をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する「ロボット犬」を戦場に投入...活動映像を公開
  • 2
    欧州でも「世紀の豪雨」が町を破壊した...100年に1度の記録的大雨「ボリス」
  • 3
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッション」に世界が驚いた瞬間が再び話題に
  • 4
    年収600万円、消費者金融の仕事は悪くなかったが、債…
  • 5
    「石破首相」を生んだ自民党総裁選のダイナミズムと…
  • 6
    ワーテルローの戦い、発掘で見つかった大量の切断さ…
  • 7
    南洋のシャチが、強烈な一撃でイルカを「空中に弾き…
  • 8
    朝日新聞の自民党「裏金」報道は優れた「スクープ」…
  • 9
    ジェットスキーのロシア兵を、FPVドローンが「排除」…
  • 10
    谷間が丸出し、ボディライン丸わかり...カイリー・ジ…
  • 1
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ日本の伝統文化? カギは大手メディアが仕掛ける「伝検」
  • 2
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッション」に世界が驚いた瞬間が再び話題に
  • 3
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する「ロボット犬」を戦場に投入...活動映像を公開
  • 4
    ワーテルローの戦い、発掘で見つかった大量の切断さ…
  • 5
    白米が玄米よりもヘルシーに
  • 6
    50年前にシングルマザーとなった女性は、いま荒川の…
  • 7
    中国で牛乳受難、国家推奨にもかかわらず消費者はそ…
  • 8
    メーガン妃に大打撃、「因縁の一件」とは?...キャサ…
  • 9
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感.…
  • 10
    【クイズ】「バッハ(Bach)」はドイツ語でどういう…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 5
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 6
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 10
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中