ニュース速報

ワールド

著名人巻き込む「パナマ文書」の衝撃、各国政府が調査開始

2016年04月05日(火)17時17分

 4月4日、租税回避地への法人設立を代行するパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の金融取引に関する過去40年分の内部文書が流出。各国政府は、各国指導者や著名人による脱税など不正取引がなかったか調査を開始した。写真は同事務所の看板。パナマ市で撮影(2016年 ロイター/Carlos Jasso)

[ロンドン/パナマ市 4日 ロイター] - 租税回避地への法人設立を代行するパナマの法律事務所の金融取引に関する過去40年分の内部文書が流出。各国政府は4日、各国指導者や著名人による脱税など不正取引がなかったか調査を開始した。

「パナマ文書」と呼ばれる機密文書にはロシアのプーチン大統領の友人のほか、英国、パキスタンなどの首相の親類、ウクライナ大統領やアイスランド首相本人に関する記載があり、波紋は世界中に広がっている。一部報道によると、サッカーのスペイン1部、バルセロナのリオネル・メッシ選手の名前も挙がっている。

世界各国の顧客向けに24万のオフショア企業を立ち上げたとするパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」は、不正行為を否定。自身のウェブサイトに4日、メディアは同事務所の仕事を不正確に報じているとのコメントを掲載した。

同事務所の1977年から昨年12月までに及ぶ同文書は、「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が公表、世界中の100以上に上る報道機関に流出した。

オフショア企業に資金を保有すること自体は違法ではないが、流出した同文書を入手したジャーナリストは、脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)、制裁破りや麻薬取引、その他の犯罪に使われる隠し財産の証拠となり得るとみている。

パナマ文書流出を受け、米司法省報道官は、米国の法律に違反する汚職などの行為がなかったかどうか司法省が調査に着手したとし、「米国、もしくは米金融システムに関連がある可能性のある汚職をめぐるすべての疑惑を司法省は非常に深刻に受けとめる」と述べた。ただこれ以上の詳細については明らかにしなかった。

ホワイトハウスのアーネスト報道官は、米国は国際的な金融取引の透明性に多大な価値を置いているとし、財務省、および司法省は調査を実施するための専門家を抱えていると指摘。

専門家による調査で文書に記載されている金融取引が米国が導入している制裁措置や国内法に違反するものかどうか判明すると述べたが、詳細については語らなかった。

フランス政府は、パナマの法律事務所から多数の金融取引文書が流出したことを受け、脱税に関する予備調査を開始した。金融専門の検察官が、流出文書から、フランスの納税者が悪質な脱税に関与しているかどうかを調べるとしている。

ドイツ財務省報道官も「仕事を始める」ことを明らかにしたほか、オーストラリア、オーストリア、スウェーデン、オランダも1150万枚以上に上る膨大なパナマ文書に基づく調査を開始したとしている。

過去に父親のビジネスに関連するオフショア企業のディレクターを務めたことのあるアルゼンチンのマクリ大統領は、野党から説明するよう追及されているが、テレビのインタビューで、父親の会社は合法であり、いかなる不正も否定した。

汚職危機に揺れるブラジルでは、7党の政治家がモサック・フォンセカのクライアントに名を連ねていると、「エスタド・ジ・サンパウロ」紙が報じた。そのなかには、ルセフ大統領率いる労働党の議員は含まれていなかった。同国の税当局は、パナマ文書にある脱税情報を確認するとしている。

<疑惑否定に躍起>

ロシアのペスコフ大統領報道官は、パナマ文書にプーチン大統領とオフショア投資家との数十億ドル規模の取引が記載されていたとの報道に関して、2年後の選挙を控えて大統領の信用を失墜させる目的だと非難した。

同報道官は記者会見で「今回の虚偽情報の主な標的は大統領だ」と言明。「『プーチン嫌い』が広がったせいで、ロシアやその業績について良いことを言うのはタブーになっている。悪いことを言わなければならず、何も言うべきことがなければでっち上げられてしまう。今回の事件がその証拠だ」と述べた。

英紙ガーディアンによると、プーチン大統領の幼なじみでチェリストのセルゲイ・ロルドゥギン氏を含む同大統領の友人たちに関連する秘密のオフショア取引やローンは20億ドル(約2218億円)相当に上る。ロイターはこうした詳細について確認していない。

裕福な株式ブローカーだった亡父とオフショア企業とのつながりについて記載されていたキャメロン英首相の報道官は「個人的問題」だとし、それ以上コメントするのを差し控えた。「パナマ文書」の顧客リストには、首相率いる保守党メンバーも含まれており、英政府は流出したデータの内容を調査すると発表した。税逃れを批判してきたキャメロン首相にとって打撃となりそうだ。

パキスタンは、同国のシャリフ首相の子供たちがオフショア企業とのつながりが記載されていたことについて、いかなる不正も否定した。

ウクライナのポロシェンコ大統領は、税金逃れのために租税回避地の企業を使っていたとの疑惑について、説明責任を果たしているとして自身を擁護した。ウクライナの議員らは疑惑を捜査すべきだと訴えている。パナマ文書によればポロシェンコ氏は、ウクライナの東部で政府軍と親ロシア派武装勢力の戦闘がピークを極めていた2014年8月、自身の菓子会社「ロシェン」を英領バージン諸島に移すため、オフショア企業を設立していた。

アイスランドのグンロイグソン首相夫妻が租税回避地の企業とつながりがあると同文書にされていたことを受け、首相は辞任要求に直面。野党は不信任決議案を提出した。

パナマ文書の波紋はサッカー界にも広がっている。

バルセロナのメッシ選手が納税を逃れるためにパナマに法人を設立していた疑いがあるとのスペインメディアの報道を受け、同選手の家族は、「メッシはこのような疑惑に一切関与しておらず、報道は誤りであり有害」との声明を発表。報じたメディアに対して法的手段を取ることも検討すると述べた。同選手が所属するバルセロナも声明で、「メッシの家族が公にした反論を信頼している」と、同選手を支持する立場を明らかにした。

<中国は報道規制、検索も制限>

パナマ文書流出を受け、中国当局は報道規制をかけている。オンラインニュースの一部の記事を削除したり、検索も制限しているようだ。ICIJによると、文書には中国の習近平国家主席など、同国の現職・旧指導部の一族に関連したオフショア企業が入っているという。中国政府からはパナマ文書について、公式な発表などはない。ロイターは国務院広報室にコメントを求めたが、現時点で回答はない。

中国国営メディアはパナマ文書をほとんど報道していない。中国の検索エンジンで「パナマ」をサーチすると、この件に関する中国メディアの記事が出てくるが、リンクの多くは機能しないか、もしくは、スポーツスターをめぐる疑惑に関連した記事に飛ぶようになっている。

経済協力開発機構(OECD)は4日、パナマが他国と情報共有を行うという合意を守っていないとし、税務の透明性に関する国際基準を満たすよう同国に求めた。グリア事務総長は声明で「パナマの税務の透明性が国際基準に沿っていないことの結果が、公の場で明るみに出た」と指摘。「パナマは直ちに同基準に合わせる必要がある」と述べた。

*情報を追加しました。

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中