ニュース速報

ワールド

焦点:難民が欧州経済底上げか、カギ握る職業スキル

2015年10月15日(木)17時37分

 10月14日、戦後最悪の状況ともいわれる欧州の難民問題は、長期的にその影響がどの程度のものになるか予測するのは難しい。レスボス島で8月撮影(2015年 ロイター/Alkis Konstantinidis)

[ロンドン 14日 ロイター] - 戦後最悪の状況ともいわれる欧州の難民問題は、長期的にその影響がどの程度のものになるか予測するのは難しい。ただ、高齢化が進み低迷する欧州経済は、難民によって息を吹き返すかもしれない。

欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)によると、9月に欧州連合(EU)に流入した難民は17万人。年初からは71万人と、2014年全体のほぼ3倍に達している。今年の難民数は100万人を突破するとみられている。

出生率低下や労働力縮小が続く欧州経済に難民がもたらす影響について、エコノミストは様々な数字をはじき出している。

クレディ・スイスの推計によると、難民流入によりユーロ圏の人口は今後5年間に約500万人増える。これは、現在のユーロ圏人口(3億4000万人)の1.5%に相当する。難民向け歳出で、ユーロ圏成長率は0.2─0.3%ポイント押し上げられる。また、潜在成長率は今後8年間平均で0.2%ポイント上昇し、1.3%になると見込まれている。今年に限っても、欧州委員会の成長率予想を最大0.5%ポイント押し上げる見通しだという。

クレディ・スイスは「住む場所を確保する必要性や、ほぼ無一文の状態でやってきた難民の限界消費性向がほぼ1であることを踏まえると、まずプラスの効果が期待できる」としたうえで「その後も若い世代の難民が労働市場に参入し始めることから、経済成長にプラスの効果をもたらす」と指摘する。

HSBCは、難民が潜在成長率を0.2%押し上げ、2025年までに潜在産出量は、難民が流入しなかった場合よりも3000億ユーロ増えると推計している。

難民1人当たり年間約1万2000ユーロの歳出を想定した場合、2016年のドイツ連邦政府・地方政府の歳出は100億─120億ユーロ拡大する。これは同国GDPの0.3─0.4%に相当する。

ドイツ銀行は、難民により消費の伸びが約0.5%ポイント押し上げられるとし、2016年のドイツ成長率予想を従来の1.7%から1.9%に上方修正した。

<ポイントとなる難民の職業スキル>

ただ、こうした景気押し上げ効果は、過去数十年、人口動態という点で問題を抱える欧州に変化をもたらすのに十分だろうか。

経済協力開発機構(OECD)は「1990年代半ばから、移住者はEUの人口動態を最も大きく動かす要因だった」としたうえで「今や唯一の要因になりつつある」と指摘している。

HSBCが国連データを引用し分析したところによると、ドイツが現在の人口を維持するには、今後10年にわたり、毎年約70万人の難民を受け入れる必要がある。ドイツは80万人の難民受け入れを表明しているが、HSBC試算に基づくと、これでは人口減少を食い止める効果は1年しか見込めない。

将来の移民数は、シリア情勢やEU各国の受け入れ状況に左右されるため、予測するのは難しい。ただ、大量になることはほぼ間違いない。

フロンテックスの推計によると、400万人以上のシリア、アフガニスタン、イラク、パキスタンからの人々が一時的にトルコやレバノン、ヨルダン、およびエジプトに避難している。

英国防省は、2020年までにサハラ以南のアフリカから約6000万の人々が砂漠化した地域を離れ、北アフリカや欧州に移動するとの調査結果を引用している。

こうした人々が新たな土地にどのようなスキルを持って訪れ、その後どの程度の職業訓練を受けられるかは、受け入れ国の経済に大きな影響を与える。ユーロ圏では労働者は不足しているが、非熟練労働者は有り余っている。

欧州委員会の推計によると、今後10年間、労働力不足により750万の穴埋めできない職が発生する。ただ、HSBCは、こうした推計は、同じ時期にフランスやイタリアを中心に2300万人の非熟練労働者が余剰となり、3200万人の高度な技能を持つ従業員の不足が見込まれるという問題を覆い隠している、と指摘する。

(Mike Dolan記者、 翻訳:伊藤恭子 編集:加藤京子)

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JPモルガンCEO、後継計画は最重要課題 多くの時

ワールド

ウクライナ、イランと国交断絶も 対ロシア兵器供与巡

ワールド

ロシア前国防相、中国外相と会談 緊密な協力に期待表

ビジネス

銀行規制修正案、資本要件引き上げ水準緩和へ=FRB
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    クルスク州「重要な補給路」がHIMARASのターゲットに...ロシアの浮橋が「跡形もなく」破壊される瞬間
  • 2
    非喫煙者も「喫煙所が足りない」と思っていた──喫煙所不足が招く「マナー違反」
  • 3
    【クイズ】世界で最も競技人口が多いスポーツは?
  • 4
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 5
    トランプの勝利確率は6割超、世論調査では見えない「…
  • 6
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 7
    共和党の重鎮チェイニー父娘、党内の反トランプ派に…
  • 8
    伝統のカヌーでマオリの王を送る...通例から外れ、王…
  • 9
    米国内でのスパイ摘発が在米中国人社会に波紋...米当…
  • 10
    米大統領選でトランプ・バンス陣営を襲う「ソファで…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 6
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 7
    「私ならその車を売る」「燃やすなら今」修理から戻…
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 10
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中