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焦点:中国が南シナ海で「人工島」拡大、実効支配を強化へ

2015年02月20日(金)16時45分

 2月19日、南シナ海で中国が建設を拡大させている人工島は、同国の軍や漁船の拠点となる可能性があり、領有権を争う周辺国に警戒感を与えている。写真は南シナ海を航行する中国の海洋監視船。昨年6月撮影(2015年 ロイター/Nguyen Minh)

[香港 19日 ロイター] - 南シナ海で人工島の建設を急ピッチで進めている中国。そう遠くない将来、同国の海軍や空軍、漁船がそうした人口島を拠点に活動範囲を広げる可能性があり、同海域で領有権を争う周辺国に警戒感を与えている。

最近公開された衛星画像とフィリピン当局者の話を基にすると、人工島の建設はスプラトリー(南沙)諸島の6つの岩礁に拡大。またフィリピン政府は、今月には、中国の浚渫(しゅんせつ)船が7つ目の岩礁で作業を開始したと主張している。

同海域での米軍の優位性を脅かすことはないとみられるが、人工島では港や燃料の補給基地のほか、おそらく滑走路の建設も進んでいる。これについて専門家は、東南アジア海域のまさに中心で中国による力の誇示を許すことになると指摘する。

このような人工島について、西側外交官の1人は「われわれが考えていたよりも大きく、野心的」だとし、「開発が進むにつれ、多くの点で南シナ海で中国に対抗するのは非常に困難になるだろう」と語った。

エネルギー資源が豊富とされ、年間5兆ドル規模の海上貿易が行われる南シナ海で、中国はフィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾と領有権をめぐり争っている。

調査会社IHSが発行する軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」に今週掲載された衛星画像では、ヒューズ礁(中国名:東門礁)に新しい施設が建設されているのが確認できる。同誌は、昨年8月以降に開発が進められてきた7万5000平方メートルの敷地に「大規模な施設」が建設中だと分析している。

また、ファイアリー・クロス礁(永暑礁)の画像も掲載されており、そこには全長3キロ超の人工島が建設されているが、専門家はここが滑走路になるとみている。

同様に、ガベン礁(南薫礁)、クアテロン礁(華陽礁)、エルダッド礁(安達礁)でも建設作業の様子が確認でき、ミスチーフ礁(美済礁)での新たな浚渫作業も確認された。

<漁師に恩恵>

人工島が軍事的に使用される可能性がある一方で、一部の専門家からは非軍事的な利益の大きさを指摘する声も聞かれる。

オーストラリア国防大学(キャンベラ)の南シナ海専門家、カール・セイヤー名誉教授は、人工島での補給や休憩が可能となるため、漁船や沿岸警備当局を効果的に機能させることが可能だと指摘する。石油探査活動も同様の恩恵を受けるだろう。

ロイターは昨年7月、中国当局が同国の漁船がスプラトリー諸島で操業することを奨励しており、しばしば燃料補助を行っていると報道した。

「軍事的な問題以前に、中国の漁船や沿岸警備艇の活動範囲拡大は、対抗するのが非常に困難な戦略的変化となるだろう」とセイヤー氏は語る。また同氏は、法的な権利が人工島を越えて主張されることは恐らくないとしたうえで、中国が周辺の海域から領有を争う国々を効果的に追い出そうとする可能性を指摘した。

同地域に派遣されている一部の大使館付き武官は、中国は対潜作戦のため、最終的には新しい人工島のヘリ施設を使用するだろうとみている。

中国本土の安全保障を専門とする嶺南大学(香港)の張泊匯氏は、「中国側から見れば、これは政治や法的な問題ではなく、むしろ安全保障の問題」との見方を示した。

<戦略的な溝>

北京の安全保障専門家ゲイリー・リー氏は、人工島での軍事的利益は、本土からの距離を考えると比較的少ないとし、「地域上の戦術的な使用に限られるだろう」と語った。

昨年にインド洋で行方不明になったマレーシア航空機の捜索では、中国海軍の補給艦がオーストラリアまで出向くなど、海外軍事基地や寄港可能な港が中国には足りないことを露呈した。

中国軍当局者らは、政府が目標とする外洋海軍力を2050年までに持つには、「海外基地の不足」などの問題を解決する必要があることを理解している。また一部の専門家は、人工島によって中国が南シナ海上空に防空識別圏を設定しやすくなるとみている。

中国は2013年に東シナ海上空に防空識別圏を設定した際、日本と米国から激しい非難を浴びた。一方、南シナ海でも同様の措置を取るのではないかとの憶測については否定している。

だが、フィリピンの元国家安全保障顧問であるロイロ・ゴレス氏は、中国は人工島の建設を来年の初めごろまでには完了し、3年以内に防空識別圏の設定を発表すると予想。「中国は点と点を結び、全体像をつくり上げているところだ。そのことに全力を挙げている」と述べた。

(Greg Torode記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)

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