ニュース速報
ビジネス

焦点:不法移民送還に軍動員へ、トランプ氏の構想は法廷で阻止できるか

2024年12月01日(日)08時06分

 11月26日、トランプ次期米大統領は、数百万人の不法移民の強制送還に米軍を活用することを公約している。国内では連邦軍を動員しないという米国の伝統に反する構想だが、法律の専門家によれば、司法の場で争ったとしても阻止することは難しそうだ。写真は、メキシコとの国境でスピーチするトランプ氏。8月22日、米アリゾナ州で撮影(2024年 ロイター/Go Nakamura)

Tom Hals

[26日 ロイター] - トランプ次期米大統領は、数百万人の不法移民の強制送還に米軍を活用することを公約している。国内では連邦軍を動員しないという米国の伝統に反する構想だが、法律の専門家によれば、司法の場で争ったとしても阻止することは難しそうだ。

トランプ氏の政策顧問らは、収容所の建設、不法移民の国外移送に軍を活用し、国境警備隊や移民局職員には捜査や身柄の拘束に専念してもらうと話している。

専門家は、軍の役割がメキシコ国境沿いを中心とする支援の任務に限定され、容疑者と接触しないのであれば法的には問題がない可能性があるとしている。

米空軍士官学校のライアン・バーク教授(軍事・戦略研究)は、個人の見解としつつ、「こうした計画に異議を唱えても、恐らく成功する可能性は低いと思う」と語る。「関連の法律には曖昧な点が多すぎて、これをやっては絶対にだめという規定を示すのは難しい」

1878年の民警団法は、連邦軍が国内法の執行に関与することを禁じている。ただし連邦議会は、例外として、大統領に対し、違法薬物取引の取締りや法秩序が崩壊した状況における支援任務に関しては、連邦軍を効果的に活用する権限を与えた。

トランプ氏は、移民の強制送還に軍隊をどのように動員するつもりか説明していない。同氏はSNS「トゥルース・ソーシャル」において、トランプ政権は不法移民の大量強制送還に「軍事的なアセット」を使うだろうというユーザーの投稿に対して、「そのとおり!(TRUE!)」と応じた。

トランプーバンス陣営の政権移行チームで広報担当を務めるカロリン・リービット氏は25日の声明で、「トランプ大統領は、違法な犯罪者や麻薬密売人、人身売買業者に対する史上最大の強制送還作戦を開始するため、連邦・州レベルで必要なあらゆる力を結集するだろう」と述べた。

1990年代のクリントン大統領以来、歴代大統領は監視や訓練、装備の修理といった支援任務のため、州兵や連邦軍を国境地帯に派遣してきた。

専門家らは、民警団法に定める支援任務の例外規定により、軍が強制送還の対象者を収監するための収容所を建設できる可能性もあると指摘する。トランプ氏の移民問題担当顧問であるスティーブン・ミラー氏は2023年11月、こうした構想をニューヨーク・タイムズ紙で披露した。

移民の人権擁護団体である米国移民評議会の報告書によると、毎年100万人の不法移民を強制送還するには、政府は収容能力を20倍に増やす必要があるという。

かつて国防総省の弁護士を務めたミシェル・パラディス氏は、軍に求められる任務が増えれば増えるほど、たとえそれが支援的な役割であっても、訴訟のリスクが増えると語る。同氏は、軍が収容所を建設する際の資金が州のプロジェクトから流用されると、その州の知事から訴えられかねないと指摘する。

<慣例違反だが異議申し立ては困難>

トランプ氏は4月、タイム誌に対し、州兵を動員した強制送還計画を支持すると語った。州兵は州知事の指揮下にあると同時に、大統領指揮下の連邦軍の予備役部隊でもある。

州兵が州知事の指揮下で活動する場合は、たとえ支援の任務を超えて積極的な治安維持に携わる場合でも、民警団法による規制の対象とはならない。

第1次トランプ政権は2020年、ミネソタ州での警察によるジョージ・フロイドさん殺害事件への抗議行動に対処するため、首都ワシントンで州指揮下にある州兵を動員した。

ただし、州知事は州兵の動員を拒否することができる。カリフォルニア州のロブ・ボンタ司法長官(民主党)はロイターに対し、ある州の州兵を別の州に派遣するのは「危険な状況」だと語った。

ボンタ州司法長官は、「カリフォルニア州はもちろんそうした動員には応じないし、そのような状況に対応するために、既存の対抗策をすべて検討するだろう」と述べた。

州知事が自州の州兵の派遣を拒否した場合、トランプ氏は、民警団法のもう1つの例外である反乱法を発動することが可能だ。

兵士に法の執行権限を与えるという反乱法を発動するにはいくつかの条件がある。公共政策を研究する左派系のニューヨーク大学ブレナン司法センターによれば、米国史上、反乱法が発動された前例は30回ある。

そして、州知事の側からトランプ氏に対して、反乱法の発動が要請される可能性もある。1992年のロサンゼルス暴動では、ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領がこの要請を受けた。

法秩序が崩壊した場合や公民権を守るために必要な場合には、トランプ氏が独自の権限で反乱法を発動することもできる。南北戦争後の1871年にはクー・クラックス・クラン(KKK)による人種差別的暴力に対応するため、また1950年代、60年代には、学校における人種差別撤廃の執行と、公民権デモを警備するためにこの法律が発動された。

反乱法に基づいて活動する軍と関わる者は、他の法執行機関に関わる場合と同じく憲法上の保護を受けられる。97年にテキサス州で発生した10代の米国人の射殺事件など、米国領土内で活動する軍人が刑事捜査の対象となった例は複数ある。

ジョージ・ワシントン大学ロースクールのローラ・ディキンソン教授は、反乱法の発動条件が整っていると主張するのも難しいが、裁判所は通常、国家安全保障の問題については大統領に判断を委ねると語る。

「私だったら、これは連邦憲法の規範と伝統に対する重大な違反であると主張するところだが、法廷で争うのは容易ではない」とディキンソン教授は主張する。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

旭化成、通期営業益予想を上方修正 電子部品など全事

ビジネス

トヨタ、通期の営業益を4000億円上方修正 販売計

ビジネス

米郵政公社、中国・香港からの小包一時停止 関税措置

ワールド

インドネシアGDP、第4四半期は前年比+5.02%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 5
    中国AI企業ディープシーク、米オープンAIのデータ『…
  • 6
    脳のパフォーマンスが「最高状態」になる室温とは?…
  • 7
    DeepSeekが「本当に大事件」である3つの理由...中国…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 10
    メキシコ大統領の外交手腕に脚光...「トランプ関税」…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 9
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 10
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中