ECB幹部、EUの経済結束呼びかけ 「対トランプ」念頭に
11月22日、 欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁(写真)は講演で、欧州連合(EU)の経済統合を改めて呼びかけた。ブリュッセルで2023年9月撮影(2024年 ロイター/Yves Herman)
[フランクフルト 22日 ロイター] - ラガルド総裁をはじめとする欧州中央銀行(ECB)の複数の幹部が22日、欧州連合(EU)に長らく停滞している経済統合を復活させるよう求めた。米国との貿易戦争が想定される中、欧州経済を守ることが狙いとみられる。
ラガルドECB総裁は22日の講演で、欧州連合(EU)の経済統合を改めて呼びかけた。欧州各国の指導者らが、自国の既得権益を守るため基本的制度の進展を長らく先送りにしており、それがEU全体に損害を与えていると批判。国際貿易を巡る緊張の高まりや米国との技術格差拡大から、早急な行動が求められていると指摘した。
トランプ次期米大統領は、輸入品の追加関税を課す方針で、欧州については数十年にわたり対米貿易で大幅な黒字を計上してきたツケを払うことになると述べている。これがユーロ圏の成長を圧迫し、インフレを押し上げることは間違いないとみられる。
ラガルド氏は、トランプ氏に直接言及はしなかったが「世界的に自由貿易に対する脅威が高まっており、地政学的環境も好ましくないものとなっている」と述べた。
ECB理事会メンバーのビルロワドガロー仏中央銀行総裁は「米大統領選の結果は、明らかに新たな警鐘となるはずだ」と指摘。将来的には関税の引き上げや財政赤字の拡大、規制の緩和が進むとの見通しを示し、「これは世界経済にとってさらなるリスクを意味する可能性がある。特に米国におけるインフレの増大、金融の不安定化、貿易の減少、ひいては欧州を含む成長の鈍化だ」と警告した。
ラガルド総裁は中でも、資本市場統合の緊急性が高まっている点を指摘した。
家計には11兆5000億ユーロの現預金があるが、その多くが資金を必要とする企業に回っていない。
「EUの家計の預金と金融資産の比率が米家計並みとなれば、最大8兆ユーロのストックが長期的な市場ベースの投資に振り向けられる可能性がある。年間約3500億ユーロのフローに相当する」と述べた。
ただ実際に資本市場に資金が流入しても、国内にとどまるか、より良いリターンを期待して米国に向かうことが多いと指摘し、欧州は資本市場への投資コストを削減し、資金が最も必要とされる場所に流れやすい規制体制を整える必要があるとした。
そのために、加盟27カ国の国内規則の上にEUとしての規制体制を構築し、特定の発行体がこの枠組みを選択できるようにすることが考えられる。
ラガルド氏は「発行体にとって28番目の制度を作り規制調和の煩雑なプロセスを回避することができる。統一された会社法と証券法の恩恵を受け、国境を越えた証券発行、保有、決済が容易になる」と述べた。ただそれでも、資金調達の厳しさを一因に欧州に進出する革新的な企業が少ないという問題は解決しない。欧州はベンチャーキャピタル投資や新興企業向け与信をしやすくする必要があると指摘した。
ECB理事会メンバーのナーゲル独連邦銀行総裁は、銀行同盟において預金者の保護が均一となるよう、EU共同の預金保証制度を創設する必要性を指摘した。また銀行と登録国の財政健全性との間の過度に密接な関係を制限する規制も必要だとした。
「欧州の繁栄モデルはますます大きな圧力にさらされている。こうした状況下で、欧州がいかにして回復力を強化し、繁栄を維持できるかを自問する必要がある」と語った。