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アングル:ドル/円にかかる「油圧」、原油安が円高リスクを意識

2017年06月23日(金)18時29分

 6月23日、原油価格の下落が円高要因として意識され始めてきた。米オクラホマ州の油田で2015年9月撮影(2017年 ロイター/Nick Oxford)

[東京 23日 ロイター] - 原油価格の下落が円高要因として意識され始めてきた。インフレ期待を低下させるおそれがあるのは日米同じだが、市場の織り込みという点で米国は「正常化」ペースの鈍化が意識されやすい。原油安がリスクオフムードを高めたり、日本の経常黒字拡大などが加われば、さらに円高圧力が増大するとみられている。

<名目金利=実質金利+インフレ>

原油安によって米国のインフレ率が低下すれば実質金利が上昇し、日米の実質金利差が拡大、ドル高/円安要因になる──との見方がある。しかし、原油安が物価(予想)に影響を与えるのは日本も同じだ。

消費者物価指数(CPI)におけるエネルギー項目全体のウエートは、日米ともに7%台。ガソリンだけを取り出してみても米国3.5%、日本2.0%と大きな違いはない。ただ、米国の方がエネルギー消費量が多く、原油下落によるプラス効果が大きいとみられるが、最近はシェールオイル産業への悪影響を考慮する必要が出てきた。

ドル/円に影響を与えるのは、日米の名目金利か実質金利か、という議論はあるものの、日米で原油価格による物価への影響がほぼ変わらないとすれば、名目金利への影響の差が実質金利差も決めることになる。この場合、名目金利がより低下した方が、通貨下落圧力を受けやすい。

名目金利に大きな影響を与えるのは、金融政策の見通しだ。今月開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)がタカ派的で、米連邦準備理事会(FRB)は、今後の利上げや資産縮小に「前のめり」になっているとの見方が市場で広がった。原油下落によるインフレ率低下が続けば、「正常化」ペースの減速見通しから、米長期金利が低下する可能性もある。

一方、日銀の「出口」はまだ遠い。シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏は、足元の原油安が続けば、日本のコアCPIは2018年1─3月期に0.4%まで低下すると試算。10年国債利回りのターゲットを引き上げるのは困難になるとみている。

ただ、イールドカーブコントロール(YCC)政策もあって、消費者物価の下押し効果が大きく出ても、日本の長期金利はゼロ%で固定され、イールドカーブ全体も下方硬直性が鮮明になると予想されている。市場の一部では、その際に「円高圧力」が高まるリスクも意識されている。

<日本の経常黒字拡大なら円高要因に>

日本の経常黒字の拡大を通じた円高圧力が高まる可能性もある。原油を含む鉱物性燃料が日本の輸入額全体に占める比率は2─3割であり、輸出を含め最大の品目となっているためだ。

14年に1バレル100ドル台前半だった米WTI原油先物は、16年2月にかけて26ドル台まで下落。14年に3兆8805億円だった経常黒字は16年に20兆6496億円に拡大した。

15年から16年にかけて増加した黒字額4兆2370億円のうち、原油価格の下落の影響は2兆6500億円程度。WTI原油先物(終値ベース)を平均すると16年は15年から5.3ドル下落している。他の条件が同じとして単純計算すると、原油の1ドル下落で経常黒字が年間5000億円程度拡大したことなる。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト、植野大作氏が行った試算では、年間の売買金額はドル/円だけで2京4700兆円に達した。その中では経常収支の動きはそれほど大きなものではないが、資金の流れを示す経常収支は、為替市場において、ヘッジファンドなどの戦略にも影響を与える場合がある。

三菱東京UFJ銀行のチーフアナリスト、内田稔氏は「東日本大震災が発生した11年から12年にかけては貿易赤字が拡大し、経常黒字も大きく縮小した。それで海外勢の期待が円高から円安に転換した部分が多分にあった」と指摘する。

00年以降、前年に比べて経常黒字が拡大したのは9回。このうち6回は年初から年末にかけて円高となった。逆に経常黒字が縮小したのは8回で、このうち6回は円安となっている。

<クロス円経由でのリスク回避も>

年初は、昨年の石油輸出国機構(OPEC)減産合意を背景にWTI原油先物が50─60ドルのレンジとなるとの見通しが多かった。だが、シェールオイルを含めた供給過多の状態が続いており、米在庫が高止まりするなか、42ドル台まで下落している。

資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏は「50ドルは遠くなった。目先は40ドルを試した後、年後半にかけて40ドル前半での値動きが続きそうだ」との見方を示す。

原油安が景気回復に作用するとの期待があれば米株の下支えになりそうだが、エネルギー関連株の売りにつながれば、過去最高値圏にある米株が大きく調整する恐れもある。リスクオフムードが強まれば、「逃避先通貨」として円が選択されやすい状況には変わりない。

また、資源国や新興国の通貨が売られることで、クロス円経由でのリスク回避の円買いというパターンもある。さまざまな経路を通じて円高圧力になり得る「油圧」に対し、警戒を解けない状況が続きそうだ。

(杉山健太郎 編集:伊賀大記)

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