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強まるリスクオン、株高/円安進展の声 世界景気に楽観

6月4日、世界的な金利上昇の下で、米欧日の株価は堅調地合いを維持している。株式と債券が同時に買われる金融相場から、景気回復に市場が自信を持ち始め、「リスクオン」相場に移行しつつあるとの見方が急浮上している。都内で2009年11月撮影(2015年 ロイター/Yuriko Nakao)
[東京 4日 ロイター] - 世界的な金利上昇の下で、米欧日の株価は堅調地合いを維持している。株式と債券が同時に買われる金融相場から、景気回復に市場が自信を持ち始め、「リスクオン」相場に移行しつつあるとの見方が急浮上している。外為市場でも円独歩安の色彩が濃くなっており、「リスクオンの円安」が進む兆しがあるという。背景にはギリシャ問題や世界景気への楽観的見方の広がりがあるが、中国株が不安定さをみせるなど懸念材料もくすぶっている。
<金利上昇でも株価は堅調>
「起点」は再び欧州だった。ユーロ圏の5月消費者物価指数(CPI)が強かったことや、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が「(資産価格の)ボラティリティーが高い状態に慣れる必要がある」などと発言したことがきっかけで、欧州金利が上昇。米国や日本にも波及し、世界的に金利が軒並み上昇している。
今年4月末にも、欧州発の金利上昇が世界に広がったが、その際は日経平均<.N225>が500円超下落するなど、マーケット全体に動揺が走った。しかし、今回は日米欧いずれも株価は堅調。潤沢な緩和マネーをベースに、株高と債券高が同時に進行するこれまでの金融相場とは異なる動きをみせている。
「金利上昇は緩和効果を削ぐ要因にもかかわらず、株価が上昇したことは、QE(量的緩和)を続けなくても、景気回復に対して楽観的な見方が出ているのではないか」とクレディ・アグリコル証券・チーフエコノミストの尾形和彦氏は話す。
10年債利回りで比べると、3日の市場で米国が2.36%、ドイツが0.887%に上昇。日本は4日、昨年11月18日以来となる0.5%を一時付けた。水準としては前回を上回り、今年最高となっているが、株式などリスク資産市場には前回の様な動揺はみられない。
<リスクオンの円安>
為替市場でも「リスクオンの円安が進む兆しがある」(東海東京調査センターのシニアストラテジスト、柴田秀樹氏)との声が出ている。
これまでの円安はドル高が主導してきた。しかし、ここ2日間では、対ユーロでドルが下落したにもかかわらず、ドル/円はほとんど下がらず堅調な動きを続けている。ユーロ/円が上昇し、対ユーロでの円安とドル安がきっ抗したことで、ドル/円は円高に進まなかったとの解釈も可能だが、これまでのドル主導の動きとは異なる。
リスクオンによって円が売られる理由は特にないのだが、リスクオフ時に円高が進みやすかった、これまでと逆転の発想になっている。
一方、海外投資家が、日本株を買う際に、円安による目減り分を補てんするために円売りヘッジを行う動きもあるようだ。
これまで対ドルで円安は進んでいたが、対ユーロでの円安はそれほど進まず、欧州投資家にとって円売りヘッジの必要性は低かった。
しかし、足元でユーロ/円は140円台に上昇し、今年1月以来の円安水準となっている。米系だけでなく、最近、日本株投資で存在感が増す欧州系の投資家が円売りヘッジの動きを強めれば、円安を一段と加速させるフローになるとみられている。
「ギリシャ問題や世界景気への楽観ムードが高まってきた。世界的に長期金利が上昇するなか、まだわずかな動きだが、リスクオンによる円安の動きも見え始めてきた」と三井住友銀行シニアグローバルマーケットアナリストの岡川聡氏もみる。
<リスクオンの「裏付け」には不安も>
世界景気に関しても、1─3月期の低迷からの底入れ期待が強まり始めている。賃金はなかなか上昇しないが、米国でも住宅や生産、雇用などは改善を続けている。
JPモルガン・アセット・マネジメントの主席エコノミスト、榊原可人氏は「この先、世界景気が1─3月期と同じような悪いことが起きると予想しなくてはならない要素は特にない」と話す。
ただ、4月以降の経済指標には弱さもみられる。米国の製造業受注では、民間設備投資の先行指標となるコア資本財(資本財から国防関連と航空機を除く)の受注は0.3%減と、速報ベースの1.0%増からマイナスに転じた。
米供給管理協会(ISM)が3日発表した5月の非製造業総合指数(NMI)は55.7と、4月の57.8から低下した。市場予想の57.0を下回った。景気拡大とみなされる50を大きく上回ったままだが、高い市場の期待には届かなかった。
経済協力開発機構(OECD)は3日、世界の経済見通し(エコノミックアウトルック)を公表し、実質国内総生産(GDP)成長率予想を前年比3.1%増に下方修正した。昨年11月時点の予想は3.7%増だった。
強気が広がるマーケットだが、バブル的な上昇の反動が警戒される中国株など不安要因もある。今後は、市場の期待に沿うように実体経済が回復していくかが、本格的なリスクオン相場に移行できるかのポイントになりそうだ。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)