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アングル:先行き不安ぬぐえぬ企業決算、「稼ぐ力」復活にも慎重姿勢

2015年05月22日(金)19時58分

 5月22日、過去最高益を更新する企業が相次いだ3月期決算。だが、「稼ぐ力」の復活を示唆する好業績とは裏腹に、楽観論を口にする企業は少数派だ。都内で19日撮影(2015年 ロイター/YUYA SHINO)

[東京 22日 ロイター] - 過去最高益を更新する企業が相次いだ3月期決算。だが、「稼ぐ力」の復活を示唆する好業績とは裏腹に、楽観論を口にする企業は少数派だ。収益構造はコスト改革と戦略投資で以前よりも筋肉質になっているものの、景気の先行き不透明感が拭えないためだ。今期の売り上げについては鈍化予想が目立っており、そこに経営者の不安が垣間見える。

<経営のかじ取りに自信>

SMBC日興証券の集計によると、TOPIX銘柄の3月期決算の純利益の合計は26兆円にのぼり、2年連続で過去最高を更新した。今期も29兆円とさらに積み上がる見通しだ。大手輸出企業では、円安の押し上げ効果がなくても過去最高益を計画する企業が目立っており、ここ数年で実施した構造改革と戦略投資が実を結びつつある。

収益体質の改善が鮮明になった企業の一つが、鉄道事業が好調な日立製作所<6501.T>だ。東原敏昭社長は、決算発表後の記者会見で「営業利益は10%を超える伸びとなっており、確実に稼ぐ力がついてきた」と自信をのぞかせた。

今期の営業利益は6800億円と3年連続の最高益を計画。前提為替レートは1ドル115円、1ユーロ120円で、1円変動による営業利益への影響はドルが40億円程度、ユーロが10億円程度のため、現状の為替水準が続けば、さらに数百億円利益を押し上げる可能性が高い。

「意志ある踊り場から、まさに実践する段階に入った」(トヨタ自動車<7203.T>の豊田章男社長)、「利益優先から、成長優先に舵を切る」(パナソニック<6752.T>の津賀一宏社長)、「これからは第2ステージに入る」(ソフトバンク<9984.T>の孫正義社長)──。日立に限らず、この3月期決算では経営のかじ取りに自信を深める経営者が目立ったが、同時に聞かれたのが世界経済に対する不安だ。

三菱電機<6503.T>の柵山正樹社長は「順風満帆という雰囲気が社内に漂うのが一番まずい」と述べ、社員の手綱を締め直す。同社が手掛けるファクトリーオートメーション(FA)は、中国の旺盛なスマートフォン(スマホ)関連の設備需要もあって絶好調だが、今期は下期の見通しが不透明だとして、保守的に見積もっている。

柵山社長は「世界的な景気のリセッションに対する備えをしっかり行うことが重要だ」と述べ、慎重にかじ取りしていく姿勢を鮮明にさせた。

<不透明な海外市場、売上高予想は鈍化>

好調な自動車メーカーにも不安要素が残る。トヨタ、日産自動車<7201.T>、マツダ<7261.T>、ホンダ<7267.T>は今期、新興国通貨安やユーロ安などのマイナス要因をこなして営業増益を予想しているが、需要が旺盛な米国頼みの面も強く、楽観視はできない。その米国は利上げを模索しており、先行き不確実だ。

日立の中村豊明副社長は今期の経済環境について「そんなにバラ色の経済状況にはならないのではないか」と予想。「これからいよいよイグジット(緩和政策の出口)が始まる地域が出てくるとすると、株価も変動してくる。新興国のお金も急に止まるかもしれないし、慎重にみないといけない」と語った。トヨタの小平信因副社長も「新興国を中心に全体的に市場は不透明だ」と慎重な見方を示した。

企業の慎重姿勢は今期の売上高予想にも表れている。SMBC日興証券によると、今期の売上高予想の合計は473兆円と過去最高となる見通しだが、伸び率をみると2.7%増と前期の4.4%増から鈍化している。

同社のクオンツアナリスト、太田佳代子氏は、期初予想は低めに出す傾向があることに加え、前期も増収増益で発射台が高いことから鈍化予想になっても不思議ではないとの見方を示しつつも、「利益は為替要因やコスト削減など企業努力でねん出することができるが、売り上げは国内外の景気回復などモノが売れる状況でなければ見込めない」として、背景に企業の景気に対する慎重なスタンスもあるのではないかとの見方を示した。

<内需の実態にも厳しい見方>

日銀は21─22日開催の金融政策決定会合で景気判断を「緩やかな回復基調を続けている」から「緩やかな回復を続けている」に小幅に前進させた。ただ、カギを握る消費に力強さを感じている経営者は少ない。訪日外国人の増加の恩恵を大きく受けている三越伊勢丹ホールディングス<3099.T>の大西洋社長は「これを除いた消費トレンドはどうかというと、中間層の消費はまだまだだ」と語った。

4月の百貨店売上高は前年比13.7%増で、消費増税前の駆け込みがあった14年3月以来の高い伸びとなった。しかし、増税による買い控えという特殊要因がなかった一昨年比では0.1%増とほぼ横ばい圏での推移にとどまっている。

国内需要をめぐっては、自動車も消費増税のダメージを引きずっており、市場全体では減少予想だ。財布のひもが固い中で、軽自動車シフトが顕著に現れており、トヨタの小平副社長は「厳しくなる」との見方を示した。その軽自動車も、4月は同月から始まった軽自動車税増税などの影響で2割減を強いられている。

企業の稼ぐ力は確実に上がっているが、本当の意味での稼ぐ力は「どんな経済環境でもコンスタントにお金が落ちてくる製品・サービスを作れるかどうかにかかっている」(大手IT企業)との声もある。インターネットで世界トップをめざすソフトバンクは、ゲームなどのコンテンツよりも、成功すれば莫大な手数料収入が見込めるプラットフォームへの投資を加速させている。

SMBC日興証券の太田氏は「大手企業はドル/円が100円とかになってもそこそこの利益を出せるような体質になっているが、(売上高の)数量アップを見込めなければ本来の回復ということにはならない」と語った。

(志田義寧、清水律子、白木真紀、村井令二 編集:内田慎一)

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