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海外勢が早くも「5月売り」、急激に巻き戻される緩和マネー

2015年04月30日(木)18時13分

 4月30日、株式などリスク資産だけでなく、国債も売られ、グローバル金融相場が変調を来している。ソフィアで3月撮影(2015年 ロイター/Stoyan Nenov)

[東京 30日 ロイター] - 株式などリスク資産だけでなく、国債も売られ、グローバル金融相場が変調を来している。ドイツ国債の急落や米国内総生産(GDP)の減速などをきっかけに、ヘッジファンドなど海外短期筋が早くも「5月売り(Sell in May)」を出しているという。ただ、景気が弱過ぎるわけではなく、金融緩和も続く見通しであり、マネーの逆回転が本格的に始まったわけではないとの見方も根強い。

<始まりはドイツ>

始まりはドイツ債券市場だった。同国の4月消費者物価指数(CPI)は、EU基準で前年比0.3%上昇。2カ月連続のプラスとなり、上昇率は予想の0.2%を上回った。市場ではデフレ脱出の兆しと受け止められ、緩和後退観測からドイツ国債に売りが殺到。10年ドイツ国債利回りは0.28%と、12ベーシスポイント上昇。1日の上昇としては2013年5月以来の大きさとなった。

ドイツ金利上昇の影響は、為替市場と株式市場に波及。ユーロ/ドルが1.1ドル台と1カ月半ぶりの水準に上昇し、これまでユーロ安の恩恵を受けてきた輸出企業への警戒感が強まった。クセトラDAX指数<.GDAXI>は、昨年3月以来の大幅なマイナスとなる3.21%安。

デフレ脱却は長い目でみれば、欧州株にとってプラス材料だが、今は金融緩和を原動力としたグローバル金融相場のなかにあり、緩和後退観測はマイナス材料と市場関係者の目に映った。

米国の1─3月期米国内総生産(GDP)が年率換算で前期比プラス0.2%と減速したことも、短期筋の利益確定売りを加速させる要因となった。ドル高や原油安の影響で序盤の米景気が弱いこと自体は予想されていたものの、市場予想の同プラス1.0%を大きく下回ったことで、ユーロ高/ドル安の材料となり、欧州株を下押した。

経済指標の悪化は緩和継続期待、米国では米利上げ時期の後ずれ観測につながるため、金融相場にとっては悪い材料ではない。その証拠に米ダウ<.DJI>の29日の下げ幅は0.41%と独株の7分の1以下。ただ、ドイツ市場の変調で、マーケット全体が、緩和マネーの「巻き戻しモード」に入っていたため、緩和期待よりも米経済の減速に焦点が当たり、株価もプラスにはならなかった。

<われ先にとファンド勢が売り>

4月最終日の日本市場でも、海外短期筋の緩和マネー巻き戻しの動きが急激に強まった。「買い手が少ない中、ヘッジファンドなど海外短期筋の売りで押された」(大手証券トレーダー)という。日経平均<.N225>は500円を超える今年最大の下落となり、1万9500円割れ寸前まで軟化した。

円債先物<2JGBM5>も海外勢の売りを巻き込んで、一時147円71銭と約2週ぶりの水準に下落。10年最長期国債は一時0.345%と4月16日以来の水準に上昇した。「グローバルな緩和を背景にしたフラット化ポジションをアンワインドし、スティープ化局面という次のステップを見据えた取引が入り始めているようだ」(邦銀)との声が出ている。

さらに日銀が30日の決定会合で政策の現状維持を決定したことも、海外短期筋の日本株売りに拍車をかけたようだ。

「追加緩和がありそうだという確率論ではなく、決定会合に向けてリスクオンポジションを積み上げるトレード」(国内証券ストラテジスト)とあって、市場に失望感が出たわけではない。ただ、4月7─8日の決定会合で政策現状維持となった後も、30日の決定会合が近いために、こうしたトレードが巻き戻されなかったことから、日経平均などの下げが大きくなったとみられている。

アムンディ・ジャパン投資情報部長の濱崎優氏は「5月売りを警戒した海外短期筋の利益確定売りが強まったようだ。5月売りが本当にあるかどうかはわからないが、いくつか悪い材料が出てきたので、われ先にと売りを出してきたのではないか」とみる。

米株市場では「5月に売って、どこかに行け(Sell in May and Go Away)」との格言がある。その背景には決算に備えたヘッジファンドの利益確定売りや、個人への税還付の影響があると言われている。米国では、個人への税還付が2月半ばから5月半ばにかけて30兆円程度あると言われている。投資や消費に回りやすい資金とされ、ミューチュアルファンドなどにも資金流入が増加する。5月半ば以降はそれらが減速しやすいという。

昨年は、1月から2月にかけて世界的に大きな株価の調整があったために、5月相場の間に大きなリスクオフはなかった。だが、13年5月には、日経平均が約1カ月で約3500円下げるなど、世界同時株安が起きたいわゆる「バーナンキ・ショック」があった。今年は日米欧だけでなく、中国などの株価も歴史的な高水準に達しており、市場関係者の間では、2年前の再現に警戒感が強い。

<「ゴルディロックス相場」は継続>

ただ、これで緩やかな景気回復と金融緩和の併存を背景にした「ゴルディロックス相場」が終了するとの見方はまだ少ない。景気はクラッシュするような大きな落ち込みがすぐに想定されてはおらず、同時に金融緩和も継続する公算が大きい。

「米経済は4─6月期もドル高の影響や設備投資の弱さは続く。ただ、徐々に回復していく見通しだ。原油価格も上昇してきたとはいえ、1バレル60ドル以下。前年ピークの100ドル強から比べればまだまだ低く、消費刺激効果は年後半に向けて強まってくる」(シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏)という。

ドイツCPIが2カ月連続でプラスになったといっても、欧州中央銀行(ECB)は量的緩和策を3月から始めたばかり。米景気のもたつきで、米連邦準備理事会(FRB)による米利上げ時期の市場観測は徐々に後ずれしている。

日本も日銀の2%の物価目標が遠い。世界的に物価は上がりにくくなっており、金融緩和環境はしばらく続く見通しだ。

大和住銀投信投資顧問・経済調査部長の門司総一郎氏は「欧州のマイナス金利がゼロ金利になっても緩和環境に違いはない。日本株は一時的に影響を受けるが、日経平均は高値から約5%押しの1万9000円が下限とみている。1万9500円を下回れば押し目買いも入るだろう」との見方を示している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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