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インタビュー:積極財政が健全化の近道=藤井内閣官房参与

2015年03月26日(木)12時42分

 3月20日に行ったインタビューで、内閣官房参与の藤井聡・京都大学大学院教授は、財政出動による「積極的財政健全化策」を主張する。写真は東京・霞が関の財務省、2011年8月撮影(2015年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 26日 ロイター] - 政府は今年夏までに新しい「財政健全化計画」を策定する。財政の信認にも影響する重要なテーマとあって、現時点で成長重視の考え方から、歳出削減や増税も選択肢とする意見まで幅広い議論がすでに展開されている。どのような政策選択が、将来の日本経済にとって適切なのか。一連のインタビューを通じて実効性の高い具体策を浮き彫りにする。

第1回は、安倍晋三首相のブレーンのひとりで、債務残高対国内総生産(GDP)比こそ健全化目標の最終ゴールだと首相に進言してきた内閣官房参与の藤井聡・京都大学大学院教授に聞いた。

藤井氏は、財政出動による「積極的財政健全化策」を主張する。財政出動によって一時的に財政は悪化するが、タイムラグをもって成長が誘発され、安倍首相が掲げる「成長」と「財政健全化」の両立が図れると強調。歳出改革などを急げば二兎を追う首相の「大義」を逃すことになると批判的だ。

藤井氏は、財政健全化で最も合理的なのは「アベノミクス投資プラン」を宣言することだと提言。実需だけでなく、日銀の異次元緩和(QQE)以上に期待に働きかける効果があるとした。

インタビューは20日に行った。概要は以下の通り。

──財政健全化計画の基本的な考え方は。

「成長なく、ただただ歳出をカットしていく手法は、その単年度において財政は健全化したかのように見えるが、成長率が低下してしまえば、中長期的に税収は減る。それは国民の幸福にはつながらない」

「一方、成長を前提とした財政健全化計画を立てれば、1年目において財政は拡大し、その年次においては財政は悪化したかのようにみえることもあり得るが、翌年には、適切な財政政策であれば、必ず成長を促す。その結果、税収が増え、2年目以降、PB(基礎的財政収支)が黒字化の方向に改善していく。このタイムラグがあることがポイントだ」

「『消極的財政健全化策』と『積極的財政健全化策』があるとすると、『消極的財政健全化策』では一兎(=PB)しか得られず、しかも、数年間の期間で考えると、その一兎すら逃してしまう。『積極的財政健全化策』をとれば、初年度においてはPBの一兎を失ったかのようにみえるが、2年目、3年目以降は成長と財政健全化のどちらの兎(うさぎ)も手に入れることができる。積極的な財政を基本として、成長率を確保し、その帰結としてPBも改善し財政も健全化していく道筋が国民の幸福につながる」

──歳出改革や将来の消費増税も含めた財務省的発想は、財政健全化には逆効果か。

「財務省的発想が何を意味するかは明確ではないが、少なくとも財政の考え方に緊縮財政と積極財政の2種類があるとすると、緊縮財政はデフレ時代には中長期的に財政を悪化させ、適切な支出に基づく積極財政は、財政を中長期的に健全化させると考える」

──政府は20年度PB黒字化を目標に置いている。目標設定も誤りか。

「積極的財政健全化策が正しく、消極的財政健全化策が誤りであると考えているわけで、2020年度PB黒字化については誤りうんぬんではない。政府の目標として『目指す』ことに反対するものではない」

「アプローチの問題だ。ただし、PBよりも日本の財政健全化において重要なのは、債務残高対GDP比である。国際公約上もそれが最終目的と明言している。PBだけに固執するのは『木を見て森を見ず』、大きな誤りをもたらすことになる。債務残高対GDP比のほうが、デフレ下において、安倍内閣が目指している『二兎』を追う作戦では、より優れた尺度であることは自明だ」

──政府は「PB黒字化後に、債務残高対GDP比を安定的に低下させる」ことを閣議決定し、自民党も2012年の衆院選公約にあげている。この順番は間違いか。

「財政政策などを打った瞬時に乗数効果がすぐ出るということであれば、指摘するアプローチでも違いはない。しかし、タイムラグがある現実の下で、言われるような対策をすると、積極的財政健全化策でなく、消極的財政健全化策が優先される恐れが高まる。その結果、安倍首相が目指す『成長』、この『大義』を逃してしまうリスクが高まることを危惧する」

「PBは『中間目標』であると言っているだけで、政府の大きな方針の変更を主張している意識はない。国際公約通りのことを言っているだけだ」

──PB黒字化と債務残高対GDP比の目標を併存させるのか。

「もともと債務残高対GDP比の発散を防ぐことが目標、こちらが上位だ。PBは下位。今の公約がそうなっている。『成長率=金利』を前提としてPBだけに基づく財政健全化方針をたてることは、黒田日銀総裁が今やっている金融緩和状況では金利が低く抑えられる以上、完全に誤りだということは論理的に言える」

──歳出・歳入改革はどう進めればよいか。

「PBのみでなく金利と成長率、この3つを見据えながら、財政健全化を考えていくべきだ。3つの変数のうち、どれが最も制御可能か。PBは成長率に影響を受ける。一方、金利は日銀に大きな影響を受けるため、政府がコントロールできるものでないが、やはり成長率に影響を受ける。ということは政府にとってこの3変数の中でコントローラブルなのは成長率だ」

「成長、そしてPBと債務対GDP比改善のための重要変数が名目成長率である以上、この名目成長率を確保するための対策を講ずることが、歳出・歳入計画において最も重要だと考える。もちろん、リーマンショックのような国際動向など、全てをコントロールすることはできないが、政府は財政政策を通して成長率に最も大きな直接的影響を与えることができるのは明白だ」

──内閣府試算では、名目3%成長を前提とした「経済再生シナリオ」でも20年度に9.4兆円のPB赤字が残る。ゼロにどのようにしてもっていくのか。実効性の担保について。

「試算で最も重要になるのは、乗数効果と税収弾性値だ。この2つが過小評価されていれば、積極的な財政健全化策は棄却される。乗数効果と税収弾性値についての科学的な裏付けが必要になる。私はデフレ下における1998年以降だけのデータを使った乗数効果や税収弾性値を推計しているが、こうしたアプローチが必要。こうした分析がいま欠けている」

「あまり指摘されていないが、デフレが緩和すれば、名目GDPに対する税収の割合が確実に伸びる。その点を勘案した税収弾性値を是非検討してもらいたい。私の推計では、デフレ脱却で税収のGDP比は2%以上上がる。全く同じ500兆円でも、デフレ脱却した後に税収は11兆円違う。ボーナスが11兆円あるということ。そのことを勘案した税収弾性値の設定を検討してもらいたい」

──ボーナス分で不足を埋めることができるということか。

「その可能性はあるが、無論、計算しないとわからない」

──安倍首相にはどう伝わっているのか。内閣官房参与としてアドバイスしているのか。

「もちろんその可能性はあるが、お答えしないことにしている」

──5年間の計画のプロセスは。

「重要なのは、アベノミクス投資プラン。政府は昨年6月に日本再興戦略を策定した。これが正式な経済成長戦略だが、このなかにはリニア新幹線や整備新幹線など投資項目がたくさん含まれる。この日本再興戦略をベースに、2020年までにどういう投資をしていくのかというプランを宣言することだ。財政再建のために、どういう投資プランが必要かを計算すべきだ」

「 『ワイズ・スペンディング』に基づく賢明な財政政策が必要と考える。これには2種類の政策効果がある。経済をけん引していくストック効果と、極めて巨大なアナウンスメント効果がある。20年までの投資計画が明らかになれば、人々の期待は確実に上向く。それは今や追加的な金融政策よりはるかに巨大な効果があると考える。財政健全化で最も合理的なのは、『アベノミクス投資プラン』を宣言することだ。金額や中身は、2020年度黒字化目標に向けて考えればよい」

──同じく期待に働きかける意味で、日銀の金融政策はどうあるべきか。今の政策スタンスの継続が望ましいとの認識か。

「さらに拡大・縮小することに関して、今のところ強い必要性は感じない」

(吉川裕子 梶本哲史 編集:山口貴也)

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