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同時に上下する日本株と円債、順相関もたらした金融相場は岐路に

2015年03月18日(水)18時37分

 3月18日、株式と債券が同時方向に動くのは、現在の相場を左右する最大の決定要因が、金融緩和であるためだ。写真は東証。2014年10月撮影(2015年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 18日 ロイター] - 日本株と円債価格が同じ方向に動く傾向が強まっている。本来は逆相関であるはずだが、同時高・同時安の確率は3月に入って7割近い。緩和マネーをベースにした金融相場の特徴が強まっているためで、先行きを左右するのは景気より金融政策だ。

米国では「忍耐強く」の文言が取り除かれるのか、日銀は原油安が景気を押し上げてくれるまで忍耐強く待てるか、が焦点となる。

<需給の類似点も>

3月に入ってから18日まで、日経平均と円債先物(中心限月)の騰落をみると、同じ方向に動いたのは13営業日中で9日。69%の確率で同時高・同時安となっている。本来なら逆相関であるはずの2つのプライスが同方向に動きやすいのは、いまの相場が緩和マネーをベースにした金融相場であるからだ。

日本株市場の主導権は、グローバルな緩和マネーが握っているというのはよく知られている。さらに円債市場でも、最近では少しでも高い金利を求める海外投資家の勢力が増えている。さらに日銀の国債や上場投資信託(ETF)の大量購入が相場を支えているのも同じ構図だ。「マネーが潤沢すぎるために、各市場の裁定が働かなくなっている」(邦銀)という。

経済指標に対する反応をみても、金融相場の特徴が表れている。日本の経済指標に対する市場の反応は鈍いため、米経済指標に対する日米株市場の反応をみると、景気改善を示すデータにはネガティブ、景気悪化を示すデータにはポジティブに反応している。景気や企業業績の改善を素直に織り込むいわゆる「業績相場」には、まだ移行できていない。

たとえば、予想を上振れた2月米雇用統計の発表後、日米株は早期の米利上げ観測を警戒して大幅安となり、円債価格も下落した。一方、原油安によるプラス効果がみられず前月比で減少となった2月米小売売上高の発表後は日米株がともに上昇した。日経平均が250円を超える上昇となり、さすがに円債先物は下落したが、市場は景気指標には依然として「あまのじゃく」な反応だ。

<米では「忍耐強く」削除が焦点>

株式と債券が同時方向に動くのは、現在の相場を左右する最大の決定要因が、金融緩和であるためだ。金融緩和方向の材料が出れば、金利が低下(価格は上昇)し、それも株価を押し上げる要因になる。金融引き締め方向の材料が出れば、その相場は逆回転する。金融相場の行方を左右するのは金融政策の行方だ。

17、18日と開かれている米連邦公開市場委員会(FOMC)。最大の焦点は、声明の中で、先行きの金融政策の方向性を示すフォワードガイダンスに盛り込まれた利上げまで「忍耐強く(patient)」なれるという文言を削除するかどうかだ。削除されれば、6月を含む利上げが視界に入る。

消費や住宅がさえないなど米国の経済指標はまちまちだが、SMBC日興証券・シニアエコノミストの丸山義正氏は「循環的に1─3月期の米経済は減速するとみているが、原油安の効果で年後半には加速するだろう。雇用が強いのは米経済の底力が強いことを示している」と指摘。早期の利上げもありうるとの見方を示している。

ここまでの金融相場を支えてきたのは米金融緩和だったが、大きな分岐点を迎えようとしており、市場は大きな関心を持って見つめている。

<日銀は「忍耐強く」待てるか>

一方、日銀にとっては、今後「忍耐強く」いられるかが焦点となりそうだ。原油安の影響で短期的には物価に下押し圧力がかかっているものの、長期的には原油安は景気を押し上げ、物価にプラスに働くとみられる。それまで追加緩和を我慢できるかが、市場の関心事となっている。

日銀は17日の決定会合で、物価の先行き判断を「当面ゼロ%程度で推移するとみられる」に下方修正。エネルギー価格下落の影響から当面の物価上昇率が一時的にマイナスに落ち込むことも念頭に入れたとみられている。

だが、黒田東彦総裁はその後の会見で、需給ギャップや中長期的な期待インフレ率などの物価の基調は、現段階で変化する状況にはないと強調。「物価の基調は改善していく。一時的な(物価の)動きでどうこうということはない」と述べ、物価上昇率が一時的にマイナスとなったとしても、追加緩和は必要ないとの認識を示した。

JPモルガン・アセット・マネジメントの主席エコノミスト、榊原可人氏は「夏から秋にかけては原油安の影響も一巡し、物価においてプラス材料が増える。それまでは日銀も忍耐強くいられるのではないか。その際に、今後景気が上向くと自信が持てるようなデータが得られるかどうかで、追加緩和の有無が決まるだろう」との見方を示す。

欧州中央銀行(ECB)が量的緩和を開始し、新たな緩和マネーの供給拠点となったが、世界経済は依然弱くファンダメンタルズの裏付けはまだ乏しい。日米の金融緩和政策に対する見方が少し揺れるだけで、金融相場の足元はぐらつく。金融相場が加速する中で、日米中銀への関心はさらに強まりそうだ。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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