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焦点:「安倍相場」支えるマネーの変化、存在感増す長期投資家

2015年03月04日(水)18時13分

 3月4日、日経平均が15年ぶり高値を付け、アベノミクス相場が新たなステージに入ってきたが、円安進行が鈍いなど2013年の「第1幕」当時と様相は異なる。2014年11月撮影(2015年 ロイター/Thomas Peter)

[東京 4日 ロイター] - 日経平均<.N225>が15年ぶり高値を付け、アベノミクス相場が新たなステージに入ってきたが、円安進行が鈍いなど2013年の「第1幕」当時と様相は異なる。

けん引役は同じ海外勢ながら、短期筋だけでなく長期投資家も参戦。国内年金勢も加わり、底堅い相場となっているのが特徴だ。ただ、ベースは金融相場であり、米長期金利がこのまま上昇すれば、不安定化しやすいとの警戒もある。

<TOPIX先物買いが急増>

アベノミクス相場の「主役」は今回も海外勢だ。今年に入り、海外投資家が日本株を現物株・先物合わせて約2兆円売り越したことで、日経平均が850円下落。その後、計2.5兆円の買い越しに転じ、株価も2300円上昇した。相場の方向性は依然として海外勢の売買動向が決めている。

だが、ヘッジファンドなどが中心となった2013年とは異なり、今回は海外勢でも長期投資家の割合が増えているとの指摘が多い。「企業業績だけでなく、ROE(株主資本利益率)向上やガバナンス改善など目に見えるアベノミクスの成果が出始めたことで、コンセプトではなくエビデンス(証拠)を求める海外長期投資家の買いが、日本株にも入り始めている」(大手証券トレーディング担当)という。

その証拠として挙げられているのが、TOPIX先物の買いだ。2月第3週、海外投資家による日本の現物株と先物合計の売買は、1兆1326億円の買い越しとなったが、内訳をみると、現物株の1538億円に対し、先物が9788億円と圧倒的に多い。そのうち6330億円がTOPIX型だ。

<海外の長期投資家が先物買いか>

株式先物買いといえば、海外短期筋の「得意技」だが、13年当時は日経平均先物がメーンだった。今回は日経平均先物よりもTOPIX先物。買ったのは短期筋ではなく、海外長期投資家の可能性があるという。

「MSCIなど時価総額型のインデックス運用を行う長期投資家は、日経平均先物ではトラッキングエラーが出る。同じく時価総額型のTOPIXをベースにした先物をいったん買って、それを現物株に置き換えたのではないか」と大和証券・投資戦略部課長代理の熊澤伸悟氏はみる。

長期投資家の動きは、実はかなり遅い。あるマーケットが今後、成長すると予想しても、分析担当者を置いて、投資を決定し、実際にお金を投入するまでには、相当時間がかかるという。「1年半はかかるのではないか」(フィデリティ投信のアレキサンダー・トリーブス運用部長)との指摘もある。グローバル・インデックスなどからみたウエートでは、海外投資家の多くは、依然として日本株をアンダー(相対的に少ない)にしている。

<ドル/円もリアルマネーの動き反映>

ドル/円相場でも、海外短期筋よりも、長期投資家の動きが中心となっている特徴がみられる。

米商品先物取引委員会(CFTC)が発表するIMM通貨先物の投機筋のポジションをみると、株高と円安が同時進行したアベノミクス相場「第1幕」では、投機筋の円売り越しは14万3822枚(13年12月24日)まで拡大し、円安をけん引した。

だが、今回は円売り越し額は4万7512枚(2月24日までの週)と、2012年11月13日の3万0447枚以来の少なさとなっている。いわゆる「アベノミクス相場」のスタート前の水準まで、円売りポジションは縮小。円売りの主体もしくは投資手法が変化していることを示している。

その理由について、三井住友銀行シニアグローバルマーケットアナリストの岡川聡氏は、今回の相場では円売りではなく、ドル買いが主体であるからだと指摘する。「ヘッジファンドなど短期筋よりも、米金利上昇を背景にした実需筋のリアルマネーの動きが大きいのではないか。それゆえ、ゆっくりとドル高・円安が進んでいる」という。

実際、投機筋の円売りポジション減少に逆行するように、ドル/円はじわりと上昇。株高のペースには遅れているものの、3日には120円台に乗せている。

<短期筋の影響残る>

ただ、短期筋が今回の相場にまったく参戦していないというわけではないようだ。

ヘッジファンドの日本株に対する投資動向の「シグナル」として、市場の関心が高い米国の米ETF(上場投信)、ウィズダムツリー・日本・ヘッジド・エクイティ・ファンド。同ETFへの1月の資金流入額は、14年12月末対比で約7億ドルとなっている。

海外年金など長期投資家は一度買うと、そう簡単には売らない(ロングオンリーと言われる)ため、相場の安定役となるが、海外短期筋の売買は規模が大きく短期間に出るため、相場への影響度は大きくならざるを得ない。

4日の日経平均<.N225>は一時200円を超える下落となった。アライアンス・バーンスタインのマーケット・ストラテジスト、村上尚己氏は「米利上げに対して、市場がやや楽観的にみていた反動が出ている。金利が上昇気味であり、本格調整には至らないにしても、しばらく株価の上値を押さえそうだ」との見方を示す。 

今回の株高のもう1つの特徴は、国内年金と日銀の買いだ。国内年金の売買を経由する信託銀行は、年初から2月第3週までに約8100億円買い越し。日銀もETF(上場投信)を約5100億円買っている。

今後も日本株下落時の下支えになるとみられているが、マーケット全体がリスクオフに転じる場面では抵抗は難しい。影響度が小さくなっているとはいえ、海外短期筋の動きには引き続き注意が必要だろう。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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