コラム

小沢スキャンダルが民主党を救う?

2010年01月15日(金)18時04分

闇将軍の命運 6月の参院選に向けて小沢は欠かせない存在だが、鳩山政権の支持率を低下させる可能性も高い Toru Hanai-Reuters


 誰がなんと言おうと、民主党の小沢一郎幹事長はしぶとさが取り柄だ。民主党が参議院第1党になって以来、2度も党代表を辞任すると表明(うち1回は党内の慰留を受け続投)。09年には選挙戦を取り仕切る代表代行として復活し、政権交代を果たした後は党幹事長に就任した。違法献金疑惑をめぐって自民党やメディアから非難を浴びる今も、小沢は幹事長の座に留まり、「血まみれ」かもしれないが動じる様子はない。

 長きにわたる彼の政治生命はついに尽きるのか。鳩山政権がノーコメントの姿勢を崩さないことからも、事の重大性がうかがえる。民主党の指導者たちが小沢と同調して検察当局の動機に疑問を呈した昨年とは違って、今の鳩山政権は成り行きを見守っている状態だ。小沢は1月12日、自身の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる問題について、意図的に法律に反するような行為はしていないと訴えると同時に、国民に誤解を与えたことを謝罪した。

 時を同じくして、小沢が6月の参院選に向けた地方行脚を始めたのも偶然ではないだろう。これまで小沢の政府への介入を熱心に指摘してきた産経新聞読売新聞は、小沢が見せはじめた「低姿勢」は選挙のためなのか、捜査の手が迫っているからなのかと疑問を呈している。

 小沢を取り巻く捜査と、彼の「東京離れ」は民主党にとって希望の兆しかもしれない。鳩山政権にとっては、小沢のいいなりというイメージを払拭しやすくなる。これから始まる通常国会でも小沢が「闇将軍」だという非難をかわす必要がなくなり、そのぶん政治課題の議論に集中できる。

■検察からの「引退勧告」の前に自問すべき

 一方で自民党は、小沢のスキャンダルによって野党としての存在感を高められなくなる。これは日本にとっては好ましくないが、民主党には都合がいい。昨年浮上した鳩山の偽装献金スキャンダルと同じように、小沢の違法献金疑惑は自民党にとって願ってもいない攻撃対象で、後に「返り血」を浴びる心配もない。自民党の山本一太議員は自身のブログで、 「敵失」だけで自民党の信頼を回復することはできないと警告しているが、この警告は見過ごされるだろう。

 とはいえ、小沢の問題が鳩山政権の支持率を低下させる可能性は高い。今のところ、政府と民主党は最良の結果を祈るしかない。

 実際に小沢が政策決定にどう関わっているにせよ、鳩山政権が彼の影に覆われていることに変わりはない。03年に民主党が小沢率いる自由党と合併する際、小沢と交わした「ファウスト的契約」は今も民主党を苦しめている。自民党から政権を奪うには小沢は有益な存在だったが、同時に小沢のすべてを受け入れる必要があった。かつて田中角栄元首相の側近で、自民党の悪名高い最大派閥の長を務め、93〜94年の非自民連立政権を崩壊させたと批判されるなど「壊し屋」の異名も持つ。保身のために少し自由に発言しすぎる傾向もある。そんな小沢と手を組むと良くも悪くも何が付いてくるか、民主党は明確に分かっていた。そして、その通りになった。

 今回の違法献金疑惑を乗り越えたとしても、小沢は少なくとも参院選の後には辞任すべきかもしれない。選挙戦には欠かすことのできない存在だが、政権を傷つけているのも確かだ。本当に小沢が日本を良くしたいのなら、引退したほうが鳩山政権にとって有益か自問する必要があるだろう。東京地検の捜査で引退に追い込まれる前に、だ。

[日本時間2010年01月15日(金)16時00分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story