コラム

「お城」の文化交流こそ日中関係改善の切り札だ

2013年09月02日(月)08時30分

今週のコラムニスト:李小牧

〔8月27日号掲載〕

 今年3月、私は静岡県熱海市を訪れた。熱海といえば温泉、そして知る人ぞ知る秘宝館。中国紙コラムのネタ探しに「性の案内人」が「性の博物館」を訪れたのだが(笑)、「秘宝」の数々よりも、歌舞伎町案内人の目は隣にある熱海城内のある展示物にクギ付けになった。

 熱海城(といっても歴史的建造物でなく観光施設だ)の中には「日本城郭資料館」がある。日本各地の城郭を地図と模型で展示しているのだが、私にとっては隣のエッチな秘宝館より、こちらのほうがずっとそそられた。

 私は日本のお城が大好きだ。城は日本全国でだいたい100カ所あるといわれているが、既に20カ所は回っている。一番好きなのは、中国的な建築様式が気に入って既に3回も訪れている沖縄・那覇の首里城。最近も熊本城や大阪城を見に行った。白鷺城と呼ばれる姫路城も、現在修理中で外壁に覆われているにもかかわらず見学に押し掛けた。

 勇壮な天守閣に引かれるのはもちろんだが、それだけではない。城を中心に街がどんなふうに発展し、当時の日本人がそこでどんな暮らしをしていたか。今の街の様子を見ながら想像を巡らせるのは、25年間日本で暮らしてその歴史を知る私にとって、とても楽しい時間だ。

 実は日本の城と中国は無縁でなく、そのルーツは中国にあるかもしれない。というのは、私は河北省の鄴城(イエチョン)というところで、日本の城にそっくりな城郭を見たことがあるからだ。三国志の曹操の拠点だった、といえば日本人読者にも分かりやすいだろう。

 だからといって、私は「すべての日本文化は中国からやって来た!」とバカな噴青(フェンチン、中国版ネット右翼)のような発言をしたりしない。奈良のお寺を見ても、日光の東照宮を見ても、中国文化の影響を強く感じるが、何より素晴らしいのは中国と日本の文化を融合した当時の日本人の知恵と、こういった遺産を何百年間も大切に保存してきた高い意識だ。

■ネットで中国に城を紹介したい

 日本の城には最近になって復元されたものも多いが、中には松本城や姫路城のように、400年前に造られた城郭が今でも当時のまま保存されているものがある。日本人は保存に積極的な一方で、姫路城のように修復作業中でも見学者にその様子を見せるサービス精神を忘れない。

 残念ながらわが中国には、日本のような文化財を守る精神は育っていない。先ほど私が紹介した河北省の鄴城も現地に行けば見られるが、あくまで復元されたものでしかない。

 中国では「城」は街そのものを意味するが、西安や南京を除いてかつて街を取り囲んでいた城壁は残っていない。北京城の壁も今から60年以上前に打ち壊されてしまった。犯人は......わが故郷の大先輩、毛沢東だ。古いものを大切にしない一方で、最近は838㍍の世界一高いビルを造ろうと画策しているのだが、その場所は......わが故郷の湖南省長沙市だ。

 私はこんなに素晴らしい日本の城をぜひ中国に紹介したいと思っている。伝えるのは建物としての城郭の美しさや歴史だけではない。城を取り巻く街とそこに住む人々、文化、それに文化財をみんなで保護する高い意識もぜひわが故郷の人たちに伝えたい。中国のネットを通じて発信すれば、若い中国人にも日本の優れている点を素直に理解してもらえる。何ならご当地風俗を「案内」してもいい。

 尖閣での衝突をきっかけに、わが祖国と第2の祖国が「冷戦」状態になってずいぶんたった。日中首脳会談が開催されるという情報が飛び交っているが、何より大切なのは両国民がお互いの文化や歴史を尊重し合う雰囲気を取り戻すことだ。

 習近平(シー・チンピン)主席と安倍晋三首相には、会談が実現したら、かっこいい「城」の話から始めることを提案する。男同士なので盛り上がること間違いなしだ。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story