コラム
東京に住む外国人によるリレーコラムTOKYO EYE
日本は「今の」韓国をモデルにすべきでない
今週のコラムニスト:クォン・ヨンソク
〔8月31日号掲載〕
日本の官僚や産業界の人と話をしていると、彼らの一部に韓国を経済分野における成功モデルにしようとする意識が働いていることに気付く。いわゆる「ルック・コリア」と呼ばれる風潮だ。
サムスンや現代、LGといった企業の躍進や、世界各国との自由貿易協定(FTA)締結、教育改革などによるグローバル化の推進が、日本にそうした意識をもたらしているのかもしれない。また平昌(ピョンチャン)冬季オリンピック誘致の成功や、欧米でもブームを起こしつつあるK─POPなどによって、停滞気味の日本の目に韓国が若くて元気で健康な国に映っているのだろう。
だが現在の韓国は、本当に日本のモデルになり得るのか。隣の芝は青く見えるもの。僕が思うに、少し韓国を買いかぶり過ぎだろう。
実際のところ「超圧縮成長」を遂げてきた韓国経済は、その裏で国内に大きなひずみを生み出した。超大企業中心主義、超輸出依存体制、土建と土地バブルに象徴される極めて不健全な経済構造......。大企業躍進の陰では、5割を超える人が非正規雇用に転落している。国家と市民が企業と資本に主導権を奪われた、究極の企業社会・格差社会が「サムスン共和国」とも称される今の韓国なのだ。
さらに深刻なのは、未来を担うべき若者たちが病んでいること。バラク・オバマ米大統領も称賛する韓国の教育システムだが、小学校からの英語教育義務化により、就学前から月100万ウォン(約7万円)もする英語幼稚園に通い、勉強のし過ぎで視力が極端に落ちる幼児や、ストレスで鬱になったり犯罪に手を染めたり自殺する子供も増えている。親にも月100万~200万ウォンもの教育費がのしかかる(韓国の平均月収は約272万ウォン)。
それでも勝ち組への門はあまりに狭い。ソウル、高麗、延世のいわゆる「SKY大学」に行けなければ、二流三流の人生が待っている。ソウル大学を目指して何度も受験したが失敗し、あえて大学の近くで首をつるという事件も起きるほどだ。
■この長い競争にゴールはない
厳しい受験戦争を勝ち抜いても、今度は「青年失業」が待っている。09年の大卒者のうち、非正規雇用を含めて就職できたのは約60%。学生は学問に打ち込むどころか、資格試験や留学準備など自身のスペックを高めることに余念がない。
李明博(イ・ミョンバク)大統領の母校・高麗大学でも、ある学生が「今日、私は大学を辞める。いや、拒否する」と題した文章を掲げ、キャンパスで1人デモを行う出来事があった。その文章には、こう書かれていた。
「私は25年間、競走馬のように長いトラックを疾走してきた。無数の友達を追い抜き、転倒させたことを喜び、前を走る友達に不安と焦りを覚えながら。だが、ようやく気が付いた。私が走っているのはゴールのないトラックだと」「大学には真の学びも問いもなく、友情もロマンも子弟間の信頼も見いだせない」
先進国に憧れてOECD(経済協力開発機構)に加盟した韓国は、今やOECD加盟国の中で貧困率、産業災害、自殺率、離婚率の高さ、そして出生率の低さの5項目でトップクラスになった。貧しくとも義理人情と仁徳を重んじ、何より生命を尊ぶかつての韓国人の面影はない。カフェや居酒屋で聞こえてくるのも、財テクや子供の教育の話題ばかりだ。
だが忘れてはならないのは、これはかつて韓国が日本をある面でモデルとし、追い付け追い越せで疾走してきた結果でもあることだ。また国内には、こうした矛盾を克服しようとする機運もある。
日本はそれでも「韓国に学び」、より速くトラックを駆ける競走馬を調教するのか、それとも日韓の無為なサバイバルレースを改め、人間的な新しい社会システムをつくるために協力するのか。3・11を経験した日本だからこそ、韓国にアドバイスできるのではないか。それが日韓の真の友情にもつながるはずだ。
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