コラム

ヨーロッパで見えた「日本はひとりじゃない」

2011年04月12日(火)17時30分

今週のコラムニスト:クォン・ヨンソク

「従順で我慢強く、ひ弱でかわいそうだけど謙虚で誠実そうな同情すべき人々」。ヨーロッパのニュースに映し出される今の日本人のイメージだ。もちろん僕の主観でしかないが、そこには「日本衰退」といった微妙な空気も漂う。

 僕は今、パリでこのコラムを書いている。「エクソダス(国外脱出)」ではなく、以前から予定されていた出張なのだが気は重い。街中で擦れ違う日本人も「共犯者」意識からか、お互いすぐに目をそらす。だが恥を覚悟で、ヨーロッパから見た今の日本をリポートしてみたい。

 まずイギリスだが、BBCの冷静な報道には感銘を受けた。福島県喜多方市に住んでいたイギリス人英語教師に電話インタビューをしていたが、とても落ち着いた受け答えだった。その教師は帰国するより、3年間暮らした喜多方に戻りたいと淡々と話していた。

 原発に関する報道は多かった。だが体育館でゲームに興じる人や、寝たきりの老人に水を飲ませる人、おにぎりを受け取る人など助け合う被災者たちの姿も穏やかに報じられていた。そこには、復興へのかすかな光が見えるかのようだった。

 また災害そのものより半導体や液晶、スマートフォンなど日本の主要産業が受ける打撃や、マーケットや経済への影響のほうに関心があるような印象だった。

 特記すべきはロンドンの銀行で(特設コーナーがあるわけでもないのに)、自発的に募金をしたいと申し出た人が何人もいたことだ。ピカデリーサーカスでも、日本人とイギリス人が一緒になって募金活動をするなど、日英の友情を目の当たりにすることができた。

 スペインのバルセロナにも寄ったが、ほとんど関心はないようだった。ニュースも北アフリカ・中東情勢やサッカーが圧倒的に多く、「日本から来た」と言ってもロンドンと違い地震に言及する人はいなかった。アジアとの文化交流を推進するある機関では、日本へのメッセージを込めた折り紙を入れる箱が用意されていたが、5個しか入っていなかった。

韓国での報道は残念だったが

 原発先進国のフランスは原発事故に高い関心を持っているものの、パリで反原発のデモを見掛けることはなかった。この美しき文化都市はかつての貴族のように、素知らぬふりで華麗に輝いていた。穏やかな天候とエレガントで平和な雰囲気が憎たらしく思えるほどだ。

 ヨーロッパに来て思うのは、やはり隣人の大切さだ。EUという共同体を持つ彼らは、例えばリビア情勢に関してもすぐに首脳が集まり協議する。仮にどこかの国が日本と同様の災難に見舞われた場合、より迅速に救援と支援の枠組みが用意されるだろう。

 その点、韓国の主要メディアの報道の在り方は心から残念に思えた。放射能の非常事態、致命的、死の原発、決死隊という扇情的な文句が躍り、日本列島が核の惨禍に見舞われでもしたかのようだった。とはいえ、それが韓国に同情と支援の輪を広げるきっかけになった側面もある。ヒロシマ・ナガサキで被爆した在韓被爆者たちも、街頭で募金活動を始めた。

 誰かが言うように、今回の事態を「天罰」とは思わない。だが、この壮絶な事態を目の当たりにして何も変わらないのも間違いだろう。これを機に、緊急事態に対処できる東アジア規模の金融機関、食糧機関、物流網などの構築に向けた真摯な取り組みが進めばいいと思う。

 パリ・オペラ座近くの日本料理店は、地元の人々でごった返していた。ほかの地域にも日本食レストランはあふれており、日本食文化の浸透度に驚かされた。文化において世界最高峰のパリで日本文化は受け入れられている。バルセロナの書店にも黒澤明や北野武の本がいくつもあった。オバマ米大統領が言うように日本は独りではないし、もっと誇りを持っていい。日本の「静かなる革命」に期待したい。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 初の実

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story