コラム

最強の中国人学校が東京にできる!

2010年12月09日(木)06時01分

今週のコラムニスト:李小牧

 李小牧の最近の悩みを聞いてほしい。歌舞伎町案内人として22年間この街で生き抜き、あらゆるトラブルを「自力更生」で解決してきた私の頭を悩ませているのは、わが湖南菜館の経営でもしつこいヤクザでも新しい「女朋友(彼女)」をめぐる夫婦ゲンカでもなく、子供。もちろん子供といっても新しい彼女との間の「宝宝(赤ちゃん)」じゃなく(笑)、現在の中国人の妻との間に生まれた今年3歳の息子の教育問題だ。

 東京の保育園に日本人の子供たちと通うわが息子は、あと3年したら小学校に上がる。「日本に住んでいるんだから、そのまま日本の小学校に入れるのが当然」と思うかも知れない。実際、在日中国人の大半はそうしているし、東京の小学校ではクラスに中国人の同級生がいる風景が今や当たり前だ。

 だが在日中国人の親たちはみんな深刻な悩みと不安を抱えている。「日本語に自信がなく友達の親や先生とうまくコミュニケーションできない」「子供が中国語や中国文化を忘れてしまうのではないか」「いじめられないか心配だ」......。といって妻と息子だけ中国に帰すのも非現実的。華僑の子弟が通う中華学校は全国に5校しかない。

「3年後」を思い悩んでいたところに、思わぬ「好消息(いいニュース)」が舞い込んで来た。日本の大手ホテルチェーンと東京の某有名私立大学が協力して「××中華学校」を新しく東京に設立する計画があるというのだ(「××」がどこの大学かはもちろん知っているが、今はまだ公表できない)。最初はこの某有名大学の近くに「第1号校」をつくり、その後は大手ホテルチェーンの利用していない施設を利用して東京とその近郊に2号校、3号校を展開する――。

■日本経済にも「想定外」の効果が

 私が得ている情報では、この学校は2年から3年後に開校するらしい。小学校から中学校までとなるのか、あるいは高校までつくるのか。授業で教える具体的中身はどうなるのか、といった細部はまだ決まっていない。ただ中国人だけでなく日本人も通える学校になるはずで、この伝統ある某有名私立大学が培って来たノウハウも教育課程に取り入れられる。日本語と中国語が飛び交う国際色豊かな学校になるのは間違いない。

 素晴らしいではないか! この学校なら私の子供も何の心配もなく通わせることができる。日本に住む中国人は現在68万人。在日外国人の中で一番人口が多い。その在日中国人のための学校が、日本にたった5つしかないのがそもそもおかしいのだ。

 卒業生一人一人が「日中友好大使」の役割を果たせば、この学校はただの教育機関にとどまらず、両国の文化交流の新たな拠点になる。日本経済への貢献も期待できる。この学校があれば子供のいる中国人社員が安心して来日できるので、中国企業の日本進出がスムーズになるからだ。

■ゆとり教育と詰め込み教育が合体したら

 知り合いの右翼がまた怒るかもしれない。でも心配はいらない。日本の法律に従って学校をつくるわけだし、今も中国の中学校と高校で教えている「政治」(中身は共産党の歴史だ)の授業を必ずしもこの学校で教える必要はない。入学希望者と投資が殺到するはずだから、どこかの国の学校のように日本政府の補助金をあてにする必要もない(笑)。

 この学校の卒業生は単に外国語に堪能というだけでなく、日本と中国というある意味対極の文化を理解する人材に育つ。最近発表されたOECDの学習到達度調査では、上海の学生が読解力、科学的応用力、数学的応用力のすべての分野で世界1位になり、それぞれ8位、5位、9位だった日本を大きく引き離した。

 ただ私は家庭科の授業やキャンプを通じて、早いうちから子供に実社会で役立つ能力と協調性について学ばせる日本の教育も評価している。中国の教育はよく言えば厳しい競争だが、悪く言うと今でも超個人主義の詰め込み型。この学校で日本の「ゆとり」教育と中国の「ゆとりない」教育がミックスされれば、最強の教育ができあがるはずだ(笑)。

 外国人参政権のように目くじらを立てて反対する話ではないと思うが、どうだろう? もし求められれば、歌舞伎町案内人・李小牧も教壇に立つことをいとわない。教える教科は「政治」ならぬ「性事」(笑)。「クラブ活動」があれば部長を喜んでお引き受けする!

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

外貨準備の運用担当者、FRBの独立性に懸念=UBS

ワールド

サウジ非石油部門PMI、6月は57.2 3カ月ぶり

ワールド

ロシア失業率、5月は過去最低の2.2% 予想下回る

ビジネス

日鉄、劣後ローンで8000億円調達 買収のつなぎ融
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 7
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story