コラム
東京に住む外国人によるリレーコラムTOKYO EYE
ユニクロに続け! 隠れた日本のスーパー企業
今週のコラムニスト:レジス・アルノー
10月1日以来、ファッションの中心地パリは「ユニクロ・ショック」に見舞われている。この日、「ユニクロ」がヨーロッパ髄一の商業地であるパリのオペラ地区に、ニューヨーク、ロンドンに続き世界で3番目となる旗艦店をオープンしたのだ。開店以来、大勢が行列を作る賑わいを見せている。
この熱狂ぶりは、01年にエルメスが銀座に店をオープンしたときのことを思い出させる。パリっ子がどんなに我慢が嫌いかを知っている人なら、寒いなか彼らが並ぶのがいかにすごいことか分かるだろう。さらにすごいのは、この店が開店する数日前まではヨーロッパ大陸で誰も「ユニクロ」なんて知らなかったということ。ユニクロは少しずつ、非欧米企業としては初めてにして唯一、世界規模の生活用品ブランドになりつつある。このような例を、私は他には知らない。
ユニクロの例は、他の日本企業にとって前向きな教訓になるはずだ。私たち日本在住の外国人は、この国以外では見つけることのできない日本の商品やサービスの恩恵を受けている。これらを提供する日本企業の多くは、自社を外国企業と比較することはない。だが在日外国人はこうした企業の真価に気付くことができる。外国にある外国企業による、同様の商品やサービスと比較できるからだ。
ユニクロについては幾分知識があるから、同社の成功は予見できた。いくつかの国で衣服を買ったことがある人なら、ユニクロは世界に十分通用するブランドだという結論に自然と行き着くだろう。
個人的にも、価格や品質について右に出るものはないと思う。カシミア製品なんて、本物としてはあり得ないほど安い。ブルージーンズは、今ではアメリカ製のものよりしっかりしている。
現在日本のテレビで流れている吸湿発熱素材「ヒートテック」のCMは、ヒートテックを着たモデルが闊歩する舞台が銀座、ニューヨーク、ロンドンへと移り変わっていく。アップルやIBM社の広告ように、世界をまたにかけた企業というイメージにぴったりだ。以前のCMと比べてみると、ユニクロの成長ぶりが一目瞭然だ。
■フランスにも欲しい日本独自の一流サービス
同じように、私たち外国人が評価する日本の企業の中には、世界規模になり得る企業はたくさんある。例えば、サービスでは無敵のヤマト運輸の「宅急便」。
そして、「TSUTAYA(ツタヤ)」。私が日本に住む重要な理由の1つは、新宿のツタヤだとさえ思っている。フランスにある行きつけのレンタルショップよりも、新宿のツタヤのほうがフランス映画の種類が豊富なんだから!
聞いたことのない監督の作品もズラリとそろっているし、午前2時まで開店している。フランスの行きつけ店は夜8時に閉まる。ツタヤでは1週間に何作品でも、安い金額で借りられるが、フランスでは一度に2作品までしか借りられず、次の日には返却しなければならない。値段も高い。フランスのどこが「映画の国」だって? どうしてツタヤが国外進出しないのか、私は不思議でならない。
ベネッセもそうだ。私の5歳の娘クララはベネッセの幼児教育教材「しまじろう」の熱心なファンだ。毎月、私はこの教材のクオリティーの高さ、完全無欠のサービス、そして学習を素晴らしい体験に変えるソフトウェアとおもちゃや絵本の教材の取り合わせにびっくりさせられる。
ベネッセは16年前に世界各地に展開する語学教室ベルリッツを買収したが、独自の素晴らしい教材を外国に売り込むところまではいっていないようだ。フランスのすべての子供たちが、「しまじろう」で学べるようになればいいのに!
フランスの子供向けの本は堅苦しく、ゲームの要素などが入ると低俗だと思われる。私の知る限りでは、「しまじろう」のように子供たちの発達に合わせて楽しく学びを導くようなものはない。
それから、「スープストックトーキョー」も最高だ。あるフランスのレストラン・チェーンのオーナーは、「あの店は世界のどこに行っても大成功するだろう」と私に言ったことがある。なぜこの店は外国に進出しないのか。このように、世界に通じる日本企業を挙げ始めたらきりがない。
■「ジャパン2.0」の新しい波を起こすには
私が出会う日本人はそろって、日本経済は死に体だと言うが、私はこの運命論に強く反対したい。1つの国には、常に2つの顔があるものだ。日本の1つの顔は、非効率で、余剰人員があふれ、赤字にあえぐ企業を抱えた国。もう1つの顔は、最高の競争力を備え、価格と品質において他の企業を寄せ付けず、消費者に尽くす企業が繁栄する姿だ。こうした企業は、この20年間のデフレによってたくましさを身に付けてきたといえる。
後者の企業は世界を味方に付け、日本以外の世界を驚かせることができる。もう1度言うが、日本にしばらく住んでいる外国人に聞いてみるといい!
この「ジャパン2.0」という新しい波を引き起こすにはどうしたらいいか。日本企業は、上層部の意思決定レベルにもっと多くの外国人を起用すべきだ。外国人は外国の競争相手と比べた上で、日本の強みを発見できるのだから。
ユニクロだって、一夜にして世界に通用する企業になったわけではない。01年にロンドンに進出したときはうまくいかなかったが、06年にニューヨーク・マンハッタンに店をオープンしたときには改善し、パリではもっと良くなった。ベネッセやツタヤ、それに他の企業はユニクロの後に続くべきだ。高度成長時代に重工業や自動車、電子機器産業の世界進出を当時の通産省が助けたように、経済産業省がこうした新しい「日本ブランド」を後押ししたら、私たちみんなが日本の将来について今よりはるかに前向きになれるだろう。
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