コラム
東京に住む外国人によるリレーコラムTOKYO EYE
日本人は中国野菜を拒絶できない
今週のコラムニスト:李小牧
新宿・歌舞伎町にわが「湖南菜館」がオープンしてまもなく2年になる。おかげさまで店は連日、胃の中がすっぱくなる「酸辣(ソアンラー)」な味を求めて足を運んでくれるお客さんでにぎわっているが、実はみなさんに謝らないといけないことがある。湖南菜館の湖南料理はニセモノでした!
というのはもちろん冗談(笑)。味もコックもプロデューサーの李小牧も正真正銘の湖南産だが、材料だけはずっと日本のもので代用してきた。中国から直接輸入すると、新鮮でない食材に高いコストをかけなくてはならないからだ。
中国には日本人の知らない食材がまだたくさんある。特にわが故郷の湖南省は野菜が豊富。冷たい和え物料理にぴったりな「絲瓜(スークワ)」、タケノコによく似た野菜で実が柔らかい「茭白(チアオバイ)」......こういったホンモノの湖南野菜を使えないのがずっと心残りだった。
急に野菜にこだわる菜食主義者になったわけではない。思い出すとよだれが出るほど、こういった野菜たちは美味なのだ。目の前に障壁があれば、故郷の大先輩毛沢東よろしく「自力更生」で乗り越えるのが歌舞伎町案内人、李小牧のやり方。そこで日本人の友人の力を借り、千葉県八千代市にある休耕田を利用して湖南野菜を自家栽培することにした。
まずは「家庭菜園」レベルから始めるが、はじめの段階から中国人の農業技術者を指導員として呼ぶ。生産が軌道に乗ればゆくゆくは「湖南野菜ビジネス」として大展開する。何ならJAに野菜を提供してもいい。うなぎとギョーザ騒動で中国産野菜がスーパーの棚から消えたのは記憶に新しいが、日本で作るのならそもそも農薬の心配はいらない。
湖南野菜でつくった調味料も美味! Photo by Nagaoka Yoshihiro
■美食は偏見を超える
日本ではなぜか広東、四川、上海、北京料理が中国を代表する4大料理ということになっているが、中国国内では湖南、四川、広東料理が3大料理として知られている。日本以外の国で湖南料理の知名度は高く、ドイツでは湖南出身のコックが900人も働いている。
1万年以上前に世界で初めて米作が始まったのは湖南省だし、1万年以上前に世界で初めて米作が始まったのも湖南省、今や日本で大人気になったピータンが初めてつくられたのも湖南省だということを、どれだけの日本人が知っているだろう。でも、私は故郷の知名度が日本で低いことを残念がっていない。知られていないということは、これから開拓できる市場がたっぷり残されているということでもある。
もちろん、うなぎとギョーザ騒動で刻み込まれた日本人の中国食材への偏見がすぐになくなるとは思わない。たとえ日本で生産したものでも、「中国野菜」と名がつくだけで顔をしかめる人も多いだろう。でも人間はうまいものを遠ざけることができない。偏見があっても、本当に美味ならその食材は徐々に食卓に広がって行く。それはキムチの日本での広がりを見ればよく分かる。
初収穫は半年後の予定だ。そのときには、新潟の自然でリフレッシュしたエコな歌舞伎町案内人とともに(笑)、ホンモノの湖南料理を味わっていただけると思う。
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