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コラム
瀧口範子@シリコンバレーJournal
ロボット、人工知能、医療にまで手を広げるグーグルの征服願望
私事で恐縮だが、半年以上前から取材しようと楽しみにしていた一連の新興企業があった。いずれもロボット関連の企業だ。ところが、昨年末、それらが軒並みグーグルに買収されていたことがわかった。その数はなんと8社。グーグルに買収されると厳しい箝口令が敷かれるのだろう。各企業は取材ダメ、のダンマリ状態に入ってしまう。
期待の新興企業がグーグルにあっという間に取り込まれてしまったのは、ちょっとショックだった。もちろん、グーグルの買収自体は珍しいことではない。だが、次世代のロボット技術をごっそりと手元に引き寄せたグーグルは、まるで新生の業界をまるごと先取りし、独り占めするようなものだ。その財力に今さらながら愕然とした。
それもあってふと我に返ると、実はもう私たちの生活はグーグルの包囲網にすっかり囲まれているのではないのか。わかりやすいレベルで言えば、マーケットシェアがあるだろう。検索、オンライン広告、ビデオ、ニュース、マップ、アンドロイドと、われわれが日常的に使うものの多くがグーグル製だ。
それに加えて、出遅れていたはずのソーシャルネットワークでもどんどん勢いを増している。最近は、グーグル+の知らせがたくさん入るし、身の回りで使っているユーザーも増えた。そして、以前は簡単に見られたものが、なぜか今はグーグル・アカウントにログインしなければ使えないものが増えたような気もする。グーグルの下に管理されているような気分だ。
うっかりしていると、クローム・ブラウザーの右上にグーグル+で使っている自分の顔写真が出ていたりする。「ログインしていますよ」ということを知らせてくれているのだろうけれど、そもそもブラウジングにログインは無関係ではなかっただろうか。それが今やひとつになっている。親切にも「ログインした状態でブラウジングすると、ブラウザー上の行動は丸見えですよ」とあからさまに教えてくれているわけだが、そういうことを知らないユーザーもたくさんいるだろう。
やはりお知らせがよく入るグーグル・ナウなどは、もう怖くて使えない。グーグル・ナウは、生活のあらゆる局面でグーグルのサービスがサポートしてくれるというコンセプトだが、そのためには位置情報、予定表、行動、買物など、自分の情報をグーグルにすっかり預ける必要がある。グーグルに身投げするようなものだ。せめてこれだけは抵抗したい。
だが、言いたかったのはそんなことではない。グーグルの包囲網は、グーグルのサービスがどんどんリアルな世界の方へ拡張してくるに従って、さらにひしひしと感じられるようになっている。
たとえばグーグル・グラス、そして先頃買収したサーモスタットの会社ネスト、そして来るべき自走車など、グーグルはリアルなモノの世界にも触手を伸ばしている。スクリーンの中だけかと思っていたのに、われわれの実際の日常生活の中にも入ってきて、行動や生活パターン、そして交流関係まで把握できるようになるのだ。
その意味では、冒頭に挙げたロボット会社も無縁ではない。ロボット技術と「ネット化されたモノ(インターネット・オブ・シングズ)」の技術は紙一重の関係だ。その証拠にネストにはロボット研究者が関わっている。グーグルが、そんなモノによって今後われわれの生活の中に本当のネットワークを張り始め、われわれのことをじっと見ていてもおかしくない。
そして、やはり先頃買収したAI(人工知能)の会社ディープマインドが、ネット上とリアルの生活両方でわれわれのことをもっと学習するようになるだろう。ここから逃げようとしても、もう遅すぎるのかもしれない。
創設された頃、グーグルは「エンジニア主導の新しいタイプの企業」などともてはやされていたが、そのなりわいが今になってやっと理解できたような気がする。グーグルはそれ自体がマシーンのように、何かを生み出し続ける。生み出すというか、テクノロジーがわれわれの生活をどんどん耕していくイメージだろう。止まることなく進むので、いずれわれわれの生活に余すところなくグーグルの何かが配置されるようになる。
これまでの企業ならば、開発を行う技術部門があっても、あと半分以上は事務系やセールス、マーケティングなど、人間的ペースで仕事をする部門が占めていただろう。だが、後者のような部門もグーグルならば度肝を抜くようなレベルでデジタル化され、超効率化しているに違いない。これまで知らなかったタイプの企業が、想像もつかないことをやろうとしているのだ。
グーグルは、生化学や遺伝子学にも興味を持っている。生活を耕した後は、われわれの身体の中にもグーグルが入ってくるのだろうか。
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