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コラム
瀧口範子@シリコンバレーJournal
サムスンは、アップルと互角に戦った「けっこうすごい会社」
先週末、サムスンがアップルに10億ドルの損害賠償金を支払う判決が下った特許侵害裁判。
第一ラウンドは一見、サムスンのボロ負けのようだが、裁判の過程では意外にもサムスンの強靭な筋肉を見せつけられた印象が強い。
確かに判決以降、アップルファンの間では「それ見たことか」という歓声が起こっているし、サムスンの携帯電話から乗り換えるユーザーも増えているという。だがその一方で、「あのアップルと互角に闘える韓国メーカー」というイメージを一般消費者に与えたのは、決してサムスンにとって悪いことではなかったと思う。
思えば、サムスンがアメリカ市場に積極的に乗り出してきたのは、10数年前のことだった。ある時突然、サムスンの携帯電話の派手な広告が雑誌や街のあちこちに出現したのだ。
これはiPhoneより前の時代で、当時携帯電話と言えば、テクノロジーおたくが好きな機器、あるいはいかにもビジネスで使う道具という地味なものが多かった。そこへサムスンは、目を疑いたくなるような突飛なファッションのモデルをフィーチャーした広告で攻めてきたのだ。
「何を考えているんだ、このメーカーは?」というのが率直な感想だった。その頃は日本メーカーもまだ健在だったこともあって、「こんな派手なことをやっても、空回りするだけなんじゃないの?」とまで思った。
ところが、サムスンはその後、ジリジリとアメリカ市場での知名度を上げていった。「派手で目立つ広告を打つ、アグレッシブで元気な韓国メーカー」というイメージを定着させる一方、何度も広告を刷新しながらブランドを前進させていった。
それまでの携帯電話はほとんど黒やグレーだったが、サムスンの携帯は楽しいカラフルなものが多かった。もし「携帯電話を一般消費者向けにアピールする手順」というビジネス・プロセス特許があれば、サムスンはアップルの数年先を行っていたはずだ。
携帯電話以外の製品も同じだ。量販店の店頭では冷蔵庫や洗濯機などの家電やテレビ、デジカメ、コンピュータ、オフィス製品とどんどん売り場を広げていった。その間、サムスンのアメリカ担当マーケティング部のトップを務めていた韓国人は、インテルに引き抜かれた。日本メーカーの窮状が本格的に伝えられ始めた数年前からは、売り場で日本メーカー製を見つけるのは難しくなり、すぐ目立つ場所にはサムスン製品が並ぶという図式がはっきりしてきた。
ともかく製品開発の速度が速く、市場にものすごい数の製品を送り出すサムスンという印象があったので、今回の訴訟で対象にされたスマートフォンとタブレットが20機種を超えていたのは、さもありなんと感じた。同じ期間、アップルが世代代わりで発売してたiPhoneやiPadのモデルは、その半分にも満たない。
もちろん、「ただ真似して製造するだけなら速いはず」とか「オリジナル製品を生み出すのは時間がかかる」という反論もあるだろうが、これはビジネスのアプローチの違い。ひょっとするとこの機動力自体が、これからの勝負になるかもしれない。
折しも、サムスンは敗訴した翌日に、今度はWindows Phone8搭載のスマートフォンやWindows RT搭載のタブレットを発表した。アンドロイドOSだけに頼らず、裾野を広げる戦略だ。訴訟の対象になった製品も、すばやく改訂を加えているという。決して、ただの「負け」だけには終わらなさそうだ。
裁判では、アップルの開発プロセスや試作品、他に開発しようとしていた製品など、開発にまつわる知らられざる側面を数々あぶり出しながら粘り強く闘ったサムスンは、アップルが訴訟ばかり仕掛ける「ちょっとイヤな会社」というイメージダウンを蒙ったのと裏腹に、「けっこうすごい会社」というイメージアップになった。
つまり、「敗訴=打ちひしがれるサムスン」という日本流のストーリーとは、まったく異なる筋力を持つ企業だということだ。縮小路線にばかり目を奪われている日本メーカーにも、ぜひ奮起してもらいたいのだ。
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