コラム

フェイスブックから利用者を「解放」するアンチFBサイトって?

2012年02月17日(金)16時07分

 先日、高校を卒業したばかりの知り合いの女子がこう宣言した。「フェイスブックは、もう辞めた!」

 アメリカのティーンエージャーにとって、フェイスブックなしの生活などあり得ないはずなのだが、これからは「前フェイスブック時代」のように、インスタント・メッセージでひとりひとりの友達といちいち連絡を取り合う生活に戻るのだという。

 彼女がフェイスブックを辞めた理由は、「友達」みんなとのやりとりがこれでもかと込み入ってきて、面倒くさくなったからだという。そんなことに時間と神経を費やすことにうんざりしたらしい。彼女たちが住んでいるのは、仲間がフェイスブックで情報を共有して、みなが一斉に同期化しているような環境だから、そこから一人抜け出すのはさぞ勇気が要ったと思うのだが、一方でせいせいしたことも確かだろう。

 別の成人男性は、「友達」リクエストに気楽に「イエス」と応えているうちに、よく知らない人や好きでもない人がどんどん増えてしまい、自分のアカウントが使い物にならなくなったという。もうひとつ別のアカウントを作って、そちらは本当の友達だけを集めていたが、そのうち両方とも放り投げて「グーグル+(プラス)」に移ってしまった。

 グーグル+の方は、「友達である」とか「友達でない」という狭量な区別なしに、おおらかに、しかもうまく交友関係をマネージできるしくみがある。友達、仕事仲間、注目する人など、知り合いをいろいろなサークルに分けて分類しておくことができる上、その分類は相手には伝わらないのだ。最近テクノロジー関係者の集まりに行くと、話に出てくるのはグーグル+のことばかり。みんなこっちへ移ってきているのだろうな、という感じがする。

 IPO申請の直後ということもあって、フェイスブックはいま話題の中心だ。日本でもユーザーが増えているようだが、アメリカでは一足先に「フェイスブック疲れ」症候群が見受けられるようになった。アメリカでのユーザー数の増加率が最近は鈍化傾向にあると、当のフェイスブックも認めている。

 その分、フェイスブックは海外戦略を積極化させている。昨年末の3ヶ月間で加わった新ユーザー登録者のうち、アメリカのユーザーが占めるのはたったの4%という(オプティマル調べ)。それだけ、海外ユーザーを取り込んでいるのだ。海外戦略と同時に、「タイムライン」などの新しい機能も発表しているが、これも、ユーザーがサイト上で過ごす時間を増やし、もっとたくさんの「自分情報」をアップしてもらうためだ。

 フェイスブックは個人のプライバシーを守っているとは思われていないので、どんな便利そうな機能や楽しげなアプリが出てきても、結局は個人情報を集める罠にしか見えない。プライバシー侵害に敏感な人々にとっては、ことにそうだ。

 そういう敏感な人々のために、最近はアンチ・フェイスブック型のサイトも生まれている。代表的なのは、「アンシンク(Unthink)」。名前自体が挑戦的で、ソーシャルネットワークとはこういうものだという「固定観念を解いて下さい」という意味。つまり、ユーザーを餌食にするようなフェイスブックのやり方だけが、ソーシャルネットワークの道ではありません、というわけだ。

 アンシンクでは、ユーザー情報はユーザー自身がコントロールする。もともとユーザーの持ち物なのだから、当然といえば当然だ。具体的には、個人情報を広告主に売って欲しくないと希望するユーザーは年間2ドルのSNS利用料を払い、個人情報を広告主と共有してもいいユーザーは無料で利用できる、というシステム。ソーシャルネットワークの中身も、友達、仕事、パブリック、スタイルと分けることができ、その最後のスタイルの部分が企業との窓口になる。

 アンシンクは、フェイスブックのようなやり方を独裁政権に見立てて、ユーザーに自由を取り戻すように訴えている。同サイトは、昨年10月末に始まって、その後2週間ほどで一気に20万人の登録ユーザーを集めた。フェイスブックの人気にはとうていかなわないが、こんなオルターナティブなソーシャルネットワークがあること自体が、私はとても嬉しい。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

バークレイズ、ブレント原油価格予測を上方修正 今年

ビジネス

BRICS、保証基金設立発表へ 加盟国への投資促進

ワールド

米下院で民主党院内総務が過去最長演説、8時間46分

ビジネス

米サミットと英アストラが提携協議、150億ドル規模
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story