コラム

アップルとグーグル、「ウェアラブル」のかたち

2011年12月21日(水)13時19分

 アップルとグーグルが共に、「ウェアラブル・コンピュータ」の開発に取りかかっているとニューヨークタイムズが報じている。

「ウェアラブル・コンピュータ」とは、文字通り身つけるコンピュータのこと。小型で身体や衣服に一体化していて、操作が不要、あるいは感覚的に操作できるものを指す。

 アップルもグーグルも、それがスマートフォンと連携するという位置づけで開発を進めている模様という。つまり、ポケットや鞄に入れたスマートフォンがベースステーションになり、たとえば腕時計のような形のウェアラブルが簡易型の入力、出力装置という関係になる。簡単なことやひんぱんに使う機能は、ウェアラブル側で済ませるというわけだ。

 グーグルの方は不明だが、アップルは腕にガラス製のバンドをつけ、その中にiPodナノのような小型のコンピュータ機器が内蔵されているものを構想中。それが、スマートフォンと刻々とブルートゥースなどを経由してデータをやり取りし合う。

 今でも、ヘビーユーザーにとってスマートフォンは手放せない存在だ。電話をかけ、テキストメッセージを送り、音楽や動画を鑑賞し、書籍を読む。ニュースもチェックするしフェイスブックにも書き込みをする。もしこうした機能のほとんどを、腕時計のようなウェアラブル側で済ませられるようになったら、いちいちスマートフォンを鞄から出したり、手の中で握っていたりする必要がなくなる。

 もちろんiPodナノに似たウェアラブルなら超小型なので、コンピュータはもとよりスマートフォンの機能もすべて盛り込むわけにはいかないだろう。だが、限られた機能を美しく動かすのはアップルの得意とするところ。実際にどんな働きをするのかは不明だが、たとえば重要なメールが来た時の通知を表示するとか電話をかけるとか、そんなことがまず想像できる。音声認識技術のSiriを利用するというから、入力面ではかなりのことができるはずだ。

 グーグルの方は、やはりアンドロイド携帯との連携で考案中というが、テクノロジーおたく集団のグーグルのこと。iPodナノ程度のものでは終わらないだろうと言われている。噂されているのは、HUD(ヘッドアップ・ディスプレイ)だ。HUDとは、たとえば自動車のフロントガラスにデジタル・データが映し出されるような技術。リアルの世界にオーバーラップしてバーチャルなデータや画像が見える。通常の眼鏡に見えるがデータも映るとか、そんなこともあり得る。もちろん音声認識機能も搭載して、そこから操作入力もできるだろう。すでにHUDの専門家を引き抜いているらしく、それが本当だとしたらかなり未来的である。

 ウェアラブル・コンピュータと聞いて思い出すのは、10数年前にMIT(マサチューセッツ工科大学)で開かれた会議のことだ。「第一回ウェアラブル・コンピューティング・シンポジウム」という名前で、一体何だろうと出かけてみた。参加者はそれほど多くなく、正直なところ奇妙な研究ばかり。加えて、背中にコンピュータを背負い、カメラを頭上に付け、ゴーグルでデータを読み取り中という姿の研究者までいた。彼は、その姿でもう何ヶ月も身の回りで起こることを記録しているのだと言っていた。これぞ「研究者根性」と感じたが、そういう技術がやっと今、商用分野に派生してきたのだから、根強い技術研究とはこういうものなのだろう。アップルもグーグルも、数年先をめざして、社内で精選された少数メンバーで開発を行っているという。

 それにしても、「なるほど」と思わせるのは、コンピュータの次の行方だ。コンピュータが小型になり、スマートフォンもタブレットも発売されて、さてその次に何かあるのだろうかと疑わしく思っていたところに、ウェアラブルだ。新製品というだけでなく、複数の製品を連携させるというアイデア。人々の生活はこれでさらに便利になり、メーカーにとってはまたまた売れる商品ができるのである。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

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